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■酔田振男の酔いどれ前のひとりごと■

〜『酔いどれオマージュ』をなんとなく書いた男の、ちょっとだけマジメなひとりごと…〜

vol.67 くだまき酒場


 なんかねえ、ひとりで盛り上がっているみたいな、内輪うけのテレビ番組みたいになりそうなんだけど、もうずっと前のことなのに、だけど片手落ちだよなあ、だから会えるものなら会ってみたいなあと、ふっと言ったら、教えてくれる人があったんで、アポとって出かけたんだ。

 元日本ミドル級チャンピオン、大和田正春。

 1985(昭和60)年、人気ボクサー赤井英和を倒し、翌年には日本チャンピオンになり5度防衛というサクセス・ストーリーは知ってる人は知ってるし、知らない人は関心がないやね。

 日本タイトル防衛戦での無限川坂戦がおれにとって忘れがたいファイトだったというだけのことで、無限川坂さんには昨年5月にお会いできたし、一方の大和田さんは当時結構スポットライトが当たっていたからまあ会わなくてもいいか、なんてぼんやり思っていたんだけど、意外に近くにいることがわかって、会えるなら会おうと、埼玉は狭山市へ出向いたんだよ。

 居酒屋で2時間ほど快く付き合ってくださった。

 赤井英和戦や無限川坂戦の秘話、ボクシング界や芸能界の裏話、はては時の世界チャンピオンマービン・ハグラーへの挑戦話まで飛び出して、片思いの彼女とついに食事ができたというくらいの愉快な時間だった。

 やっぱりね、実際に会って話をきくっていうのは、遠巻きに見ているのとは全然違うんだよねえ。なんていうかなあ、自分では思い入れが強いつもりでいたのにその思い入れは実はたいしたことがなかったんじゃないかというくらい、本人を前にしたら圧倒されるんだよなあ。

 でもなんで大和田・無限戦なのって訊かれるけどさ、その理由は恥ずかしくておおっぴらには言えないよ。

 惚れこんだ試合ってのがあるだろ。わあー凄いなあっていう試合。若いころに見たものが多いんだよな、たぶん。

 サルバドル・サンチェスとダニー・ロペスとか、ユーリ・アルバチャコフとムアンチャイ・キティカセムとか、今の人ならたとえばマルコ・アントニオ・バレラとエリック・モラレスとか。あるいはマイク・タイソンに代表される迫力満点の試合とか。あとさ、ちょっとおもむきが違う、クラシックに準ずるようなものがあるだろ。誰もが異口同音に挙げる、ガラスケースや額縁に入れて飾っておきたいような、ボクサーの姿が浮かびあがってくるような気品に満ちた試合、モハメド・アリやシュガー・レイ・レナードといった役者が登場して…。

 だけどさ、おれが知りたいのは、そんなもろもろの名勝負たちとは離れた場所にある、もっと個人的な、わけありの事情がからんでいて、そのわけは当人にしてみりゃ人目をはばかるようなものでさ、きっと重大なんだろうけどハタからすりゃほんとくだらない理由のさ、それでもってずっと消えない試合、たいていの人は忘れてしまっている試合、覚えていても何であれがと言われる試合、それを聞かせてくれよ。

 おまえには評論家顔負けの、ちゃんとボクシングを見る目があるってことは分かってるよ。おかげでおれもずいぶん勉強になった。それはそれでおいておいてさ、おまえにとっての、そうだな、故郷忘じがたき、みたいな試合を、いいかげん教えてくれよ。

 さあ、あらためて乾杯しよう。

[2005/05/10 記]



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