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■酔田振男の酔いどれ前のひとりごと■

〜『酔いどれオマージュ』をなんとなく書いた男の、ちょっとだけマジメなひとりごと…〜

vol.65 ほんの少しの恐怖


 それはほぼ無意識のうちに距離感となって出る、と著者は言う。


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「実際のリングで敵に対峙すると無意識のうちに足が半歩ほど下がってしまう。この半歩は恐怖心の残りカスのようなものなのだが、たかが半歩と思わないでほしい。プロボクシングの場合、半歩下がるとパンチはほとんどまともには当たらない。このことに気づかないと、どんなに期待されている選手でも、大成はしない」(『殴られた犬の誇り』より)

 そうなんだよねえ。

 格下相手にはすばらしいボクシングを見せた選手が、相手が変わると別人のようになってしまうことを僕らは歯がゆい思いで見てきた。

 ボクシングだけじゃない。スポーツ全般に、もっとおおげさに言えば、我が身に翻って、日々の暮らしの端々で、僕らは「無意識のうちに足が半歩ほど」下がることがある。

 半歩下がるくらいならまだ上出来で、僕なんかしょっちゅう二歩三歩下がっている。背を向けることもしばしばだ。僕は逃げることができるが、客が見守るリングに上がってしまったボクサーは、どうだろう。

 プロボクサーを志したなら、だから、スパーリングのときと同じ距離で、サンドバッグを打つときと同じ距離で、恐れずに相手に立ち向かわなければならないと著者は言う。

 人気低迷が言われて久しいボクシングだが、つまらないものは見向きされないし、面白ければ人は寄ってくる。そのボクサーの、そのボクシングが面白ければ、なにはさておきボクシング、ということになる。

 面白いということ。これがどういうことか。送り手も受け手もこの面白いということに行き着くにはたいへんだが、だからといって成り行きにまかせてぼんやりしていたら、到底届かない。なーんて、ぐちゃぐちゃ理屈を言う輩、いわゆるオタクっていうやつは、うざい、と、これまた著者は一刀両断。

 僕もそのうざい連中の一人なんだけれど、無断で勝手なことを書いてしまった手前、また、「たった半歩の距離だが、足を踏み出すには勇気が必要な遠い距離だ」なあんて、すてきな文句を目にしたら、そして、ああしようこうしようなんて具体的なことはなんにもないんだけれど、僕なりに一歩、いや、半歩踏み込んだつもりで、決めた。

 よし、高橋直人に会いにゆこう。

[2005/04/08 記]



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