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「同伴も指名もいっぱいとって稼いじゃうもんね。よろしく」
「だけどさ、一緒にめし食うつもりが時間がないなんて言ってさ、高い弁当を買わせて、持ち込みで店ん中でみんなでつっつくなんてこと、やめろよ」
「お一人様一回限りよ」
「だからさ、鮨だのフルーツだのたかったりさ、そういうことしてると客が逃げるだろ」
「去る者は追わないもん」
「なこと言いながら、ケータイ鳴らせば喜んで客は来るってこと踏んでるだろ」
「経営者はね。お店の指示でみんなやってることだもん。結構ノルマきついのよ。でもね、おかしなもんで電話すると、お客さんみんな来るんだもん。だけど、あたしはあんまりしない。するのはごく一部のお客さんだけ」
「そういう文句も店の指導か」
「まあね」
「バカだよな男は。アイ・ラヴ・ユーを勝手に感じて鼻の下のばしちまう」
「アイ・ラヴ・ユーの日本語訳は『愛してる』じゃない、『死んでもいい』だって、教えてくれたこと、ちゃんと覚えてるわ」
「鴎外先生の受け売りだってこともな」
「すぐに種明かしするとこがいいわ」
「ジョー小泉は鴎外が好きらしいよ」
「その人ってボクシングの人でしょ。総理大臣とは関係ないよね」
「たぶんね、わからんけど」
「お店ひけて、あたし、アフターはやらないから、アパート戻ったらWOWOWつけて見てます。ときどきボクシングやってるね」
「再放送だろ」
「知らない」
「きょうは今年の総集編をやろうと思ってるんだ。つきあえよ」
「それって年末にほうぼうでやるんじゃないの」
「やるけどさ、その前に自分でやったっていいだろ。先んずれば人を制すだ」
「なんじゃ」
「出る杭は打たれるか」
「打たれないくらい出ちゃえばいい」
「そうなんだけどさ、これがなかなか出来ないんだな」
「なら、おとなしくしてるしかないじゃない」
「うるさいな。えーと、言うこと忘れた」
「総集編でしょ」
「そうだけど、話のとっかかりを、なんだっけな、今年は、えーと、チャベスがグローブを置いた。ロイ・ジョーンズ、マイク・タイソン、デラホーヤといったスーパースターたちが墜ちた。いや、そんなことは分かりきってることだ。そうじゃなくて、えーと、そう、バーナード・ホプキンスだ」
「死刑執行人」
「お、勉強してるね」
「誰かさんのおかげです」
「あのホプキンスってさ、背中が強いよな」
「はぁ?」
「背中を見てるとさ、ほんらい人には備わっていない筋肉がひとつふたつ余計にくっついていてさ、それが長期政権の源泉じゃないかって思うんだよな」
「あたし、言おう言おうと思っていたんだけどね、あなたの言うことってさ、ものすごーく、ちんぷんかんぷんよ」
「すこしは自覚してる」
「かなり自覚しないとまずいと思うよ。それに言うことが古臭いし、なんで今のボクサーのことを言わないの」
「夜空に星があるだろ、あれってみんな太陽なんだよな。生き物なんて絶対存在しない、想像を絶する燃えさかるガス玉なんだよな。見るぶんにはきらきらしてきれいだけどさ」
「それがどーしたの。急に話かえないでよ」
「でもさ、星空みてると気持が落ち着くだろ、むしゃくしゃしたり泣きたくなったりしたときでも、夜空を見上げていると不思議に気分がおだやかになってくるだろ、あれってなぜだか分かるか。ひとことで答えてくれ。10文字以内」
「いきなりそんなこと言われたって分かんないよ」
「これは誰かの受け売りじゃないぜ、ちょっと考えれば分かることだけど」
「だから分かんないよ」
「じゃ、ときどき、気が向いたら、考えてよ。考える気のない人はほっとこ。よし、これで総集編終わり。WOWOWもあしたのボクシングもカバーした」
「また訳の分かんないこと言ってる。まだなんにもやってないじゃん」
「今のことは今の人に任せておけばいいんだ。微に入り細を穿つ面白い意見があちこちで飛び交ってるだろ」
「年寄りのご意見もたまにはいいんじゃないの」
「なにそれ。今なんか変な、耳障りな、的はずれな、中傷めいたこと言わなかった?」
「ショートでストレートを出してみたつもりだけど、そういうパンチって案外効くんだってね、いつか浜田さんが言ってた」
「なんだかむしゃくしゃするなあ」
「じゃ、お星さまでも眺めれば」
「ネオン街から星が見られるか」
「ね、そんなことより時間がないの。続きはお店でしよ」
「待てよ、おい。めし食うんだろ」
「お店で食べようよ。きょうはあたし、蟹が食べたい」
「お前な、さっき言ったばかりだろ、その手はお一人様一回限りだって」
[2004/12/15 記]