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■酔田振男の酔いどれ前のひとりごと■

〜『酔いどれオマージュ』をなんとなく書いた男の、ちょっとだけマジメなひとりごと…〜

vol.48 かんかん照り


 木陰で煙草を吸っていたらカサコソ音がして、地べたの穴から蝉が這い出してきた。トンボの幼虫はヤゴだが、蝉に幼名はなかったっけ。穴ゼミと誰かが呼んでいたのはこのことか。抜け殻は知っているが、動くのを見るのは初めてだ。しゃがみこんで顔を寄せる。

 左右それぞれ3本の肢のうち、真ん中の肢が奇妙な動きをする。一度空中に投げ出して、踊りの手つきのように肢の先を翻してから、地につける。一歩一歩、でいいのか、三歩三歩なのか、とにかくすぐそばの珊瑚樹を目指す。火星の地表を探査する車のように、どこかぎこちなく、それでいてキャタビラカーのように突起物や障害物を巧みに乗り越えてゆく。幹にたどり着いてからは6本の肢は規則正しく動いて、脱皮地点をさがして上へ上へ、30cm50cm、登ったあたりで、ケータイが鳴ったので、その場を離れて、しばらく話し込む。

 気になったので戻ってみて、さて、どこいらまで行ったか、見上げてみても分らない。あきらめてもう一本煙草をつけたら、足元にさっきの蝉、だと思うけど、肢をもがれて引っくり返った死骸があった。雀か椋鳥か分らないが、ケータイで喋っていたときにバサバサ音がしていたから、鳥にやられたんじゃないのか。それならなんで鳥は食べないんだろ。それともさっきのとは別物なのか。蟻んこがたかっていないからそんなに時間はたっていないはず。でも蝉って、昼間にのこのこ出てこないもんなのに、どこの世界にもやっぱりこんなのがあるんだな。

 それにしても暑い。暑い暑いと言われるとよけいに暑いが、言わずにゃおれない暑さだ。よる年波としがらみで好きな海へも行けない。甲羅干しなんて真っ平ごめん、ばしゃばしゃ水しぶきをあげて沖へ泳ぎだして、疲れたら仰向けになって波間に揺られていたのはいつの日か。いつか沖合いへ出ることが怖くなった。遊泳エリアのブイから外へ行けなくなった。

 なことはどうでもいいが、こんなに暑くてこんなに汗をかいているのに、なぜ体重が落ちないのか。どうかすると増えている。

 ボクサーに言わせれば噴飯ものだが、だからおおっぴらにしたくないのだが、実は何人かのボクサーから夏場は体重が落ちなくて調整に失敗したという話を聞いて、真相をたずねることなく、そこで妙に納得してしまって、そうだよな、夏は暑いから汗もたくさん出るから減量には最適と考えがちだが、それが落とし穴。

 ほんとは体調維持には難しい時期で、発汗がすすむのはそれだけ体が悲鳴をあげている証左であって、体力の消耗は激しいし、夜は寝苦しく、なかなか十分な睡眠もとれない。食欲は減退ぎみでも、胃腸が丈夫なら冷たい飲料水は殊のほかうまい。

 カブトムシだのクワガタだのが出現して、昼間はセミがわんわん鳴きどおしで、学校は休みになる、裸になって水浴びしたくなる、見たことはないがお化けも出る、そんな季節がほかにあるか。要するに夏というのは非日常の世界であって、そこに身をおけば心身のバランスを保つのは容易じゃないから、こんなときこそ体重を落とすいい機会だなんて考えるのは浅はかだと言い聞かせて、すすめられるまま、目の前のスイカにかぶりつく。

[2004/08/11 記]



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