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■酔田振男の酔いどれ前のひとりごと■

〜『酔いどれオマージュ』をなんとなく書いた男の、ちょっとだけマジメなひとりごと…〜

vol.47 つかのまの


 カーンとゴングが鳴って、いきなりのクライマックス、あっというまのノックアウトは魅力がある。

 リングにあがるっていうのは、それなりのことをしてこなければ果たせないわけで、リングはごくわずかの者がようやくたどり着ける晴れ舞台のはず。世界戦なれば尚のこと。

 そんな特別あつらえの高貴な場所で、鍛え抜かれたボクサーが、まさかそんな、あるはずもないことが、いや、可能性はある、あるけれども、ほんとにそんなことが起こるなんて、そうでしょ、普通は考えません、それが起こっちゃったなんて、誰だって驚く。

 カネ返せ、そういう思いもわからないではないけど、終わっちゃったものはしょうがない。座布団とばして叫ぶのもいいけど、あれ、誰かが片付けるんでしょ。かく言う私だって、以前はだいぶ熱をあげて、試合観戦ともなれば、ひそかにミソギと称して湯に入り、不浄な身を清めたつもりで観戦にのぞんだもので、それがあなた、ほてりがさめる前に決着を見たなんて、いまだに忘れていない。

 ともあれ湯をそそいで3分で仕上がり。

 昼食はここんところカップ麺ばかり。フタをめくって、割り箸でかきまぜて、すする音がやけに大きいのは、あたりがしーんとしているせいだろうけど、ふところは秋の暮れ、おふくろはコッソショウショウ、ワンころには蚤がいる、てなもんで、ぼけーっと過ぎるわずかな時間。

 その間に勝負が決してしまうKO劇。なんの因果か、いえ、いかなる巡り合わせなのか、どんぴしゃの距離がふいに用意されて、攻めるも守るも、瞬時に風景がかわってしまう。見てるほうだって突然のことで戸惑いを隠せない。感動したとかボクシングの怖さを見たとかあっけなくて拍子抜けしたとか、まあ、ひとそれぞれ口走ってしまうのも無理はない。

 ソニー・リストンとフロイド・パターソンから、川嶋勝重と徳山昌守まで、待ったなし、やり直しのきかない1ラウンド。いろんな人のいろんな思わくをあざわらう、つかのまの1ラウンド。

 そのつかのまの1ラウンドを繰り返し見ていると、ふしぎなもんで、つかのまがつかのまじゃなくなって、長い時間になる。ボクシングが好きな方なら一つや二つ、忘れがたい1ラウンドKOの試合があると思う。カップ麺をいくら積み上げても及ばない深い3分間。

 くどいようだけど、めったにないことだから記憶に残りやすい。それに、貧乏性のせいか、ビデオやDVDの余ったところに収録できるから、重宝している。

[2004/08/04 記]



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