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■酔田振男の酔いどれ前のひとりごと■

〜『酔いどれオマージュ』をなんとなく書いた男の、ちょっとだけマジメなひとりごと…〜

vol.45 トミー


 トーマス・ハーンズ、好きだったね。

 なによりもその登場が鮮烈だった、レナードよりもね。未曾有のハリケーンが猛威をふるっている、そんな感じだった。

 どうやって入手したのか覚えていないが、友人宅で見せてもらったビデオテープ。ざらざらした画面の中で躍動する細身の黒人ボクサー。デトロイト出身ということもあり、初期のころは拳聖ロビンソンの衣鉢を継ぐとも目されたっけ。元チャンピオンたちを一蹴するたび、あれがチャンピオンか、と自身呟きながら迎えた世界戦。ホセ・クエバスとの一戦はハーンズのベストマッチであり、中量級の覇権の一角がラテンからアメリカへ移った瞬間でもあった。

 なーんて、我ながらいい加減だなあ。

 ハーンズがでてくればレナードだけど、そうでもないか。まあそういうことにしておいて、レナードといえばその華やかなキャリアの中で、すぐに浮かぶ試合がいくつもあるよね。そう、あの試合、この試合、いっぱいあった。夢の超特急に乗って、ぼくらは見たことのない素晴らしい景色を眺めて心躍らせた。

 レナード一番の試合は…なんて話になったら、みっつよっつの中からあれだこれだと話に花が咲くだろう。それはそれでいいんだけど、今にして思えばね、そんな数々の名試合に挟まれた、ラリー・ボンズ戦とかブルース・フィンチ戦がきれいによみがえってくる。だって、シュガー・レイ・レナードという自信にあふれたボクサーが、ひとり色鮮やかにリングにいたという印象があるから。

 でもさ、ここでまた話がかわるんだけど、だいたいレナードやアリは意地悪に見れば、ボクサーには珍しい策士であって、彼らと戦うボクサーはリングでもうひとつ、不慣れな神経戦を戦わねばならなかった。それも力のうち、それこそが力と言うなかれ。ハーンズ擁護の伏線でひとまず言っているだけだから。

 八方美人なもんで、ところ変われば、ハーンズは打たれもろかったからなあ、ロベルト・デュランに負けていたらその立場はどうなっていたろう。そこへいくとレナードはまともにパンチをもらわなかったし、ひ弱そうに見えて勝負強かったし、なーんてきっと言うだろうから。

 今ではその評価はレナードより下になってしまって、ハーンズ自身、レナードへの劣等意識はぬぐえないのかもしれないが、誰がなんと言おうと(誰もなにも言わないっつうの)、ハーンズって、好きだった。フリッカージャブを真似て、よくおどけたもんさ。

 世界トップレベルにしてはボクシングはおそまつなくらい一本調子で、そこがまた良かったんだろうし、初めに言ったその出現ぶりがたまらなかったし、母親思いの孝行息子みたいだったからね。

[2004/07/07 記]



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