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なにしろ俺は戦績だってぱっとしないし、勝ったり負けたりで、まあ、練習なんてそんなにしなかったからな、しなくてもそこそこ勝つもんだから、そのうちランキングにはいって、試合やれば20万や30万もらえるから。俺はそれで十分だった。組まれた試合をこなす、相手のことなんてあんまり気にしなかった。ランカーだろうが有望なボクサーだろうが、どうでもよかった。殴りあうのは案外たのしいもんさ。
上を目指して経験を積んでゆく、そんなことはハナから考えていなかった。まっとうに働くのがいやで、たまたまボクシングをやって、贅沢はできなくても、気楽なアルバイトをしながら、それでなんとかめしが食えたから、俺はそれでよかった。人と話したり、顔色うかがって気ィつかったりするのは疲れるだけさ。友だちなんてひとりふたりあればいい。
いつまでもそんなんでよかったはずが、なんだろ、年くったことをつい考えちまったのがまずかったのか、トレーナーにハッパかけられて、その気になったのか、自分じゃよくわからない。とにかく練習はした。なんだろ、何かに憑かれたみたいになって、ひとつことにこんなに夢中になったのは生まれて初めてだった。
それでも、来る日も来る日も左ジャブばっかりでいやになったぜ。俺のはそういうボクシングじゃないんだ、ふところに飛び込んで雨あられとパンチを叩き込む、それでいいんだ。あてつけにサンドバッグを叩きのめしてやったが、トレーナーは涼しい顔で、さあ練習だとぬかしやがった。
見えないパンチを打て!
そんなこと言われたって俺にゃわからない。ノーモーションで打つんだと教えられて、鏡の前でシャドーしたって、首だの肩だの動いているなんて注意されたって、そう簡単に直せやしない。俺のパンチは、これから打つよと相手に知らせるからテレフォンパンチというんだそうだ。どうりで当たらねえわけだ。
それでも一発当たればこっちのもんだ、そう思ってやってきたが、あの試合だけは妙にパンチが当った。左ジャブがこつんこつんと当って、そのたびに奴はのけぞってたな。だけどあとが続かない。飛び込んで振るったパンチはみんな外された。へばったところへようやくいいのを当てることができたが、奴はさすがにうまいもんだ。注目されるだけのことはあるって、ひそかに感心してたんだぜ。
世界を目指すホープさんよ、ごめんな、きれいなキャリアに汚れをつけちまって。だけどな、あれをラッキーパンチと言うなら、お望み通り、またラッキーパンチをお見舞いしてやるよ。
[2004/06/23 記]