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昨年のライト級新人王で日本ランカーの中森宏選手と、東大出身のメインエベンターという触れ込みの藤原康志選手、ライト級8回戦でのこと。
開始まもなく、リングサイドから声がとんだ。
「ふじわらーぁ、アタマ使え、アタマいいんだから」
たったこれだけのことなんだが、おかしくてたまらなかった。声援なのかヤジなのか判らない。理にかなっているので文句はないし、東大出身なんだからそれなりに頭脳明晰だろうし、まったくもって仰るとおりなんだが…含みのあるセリフで、リング上で苦闘するボクサーには、ほんと申し訳ないんだが、笑いをこらえるのに大変だった。
その昔、試合が始まっても両者睨み合うばかりでほとんど手を出さないのを見かねた客が、「どっちも負けーぇ」とヤジをとばして場内の笑いを誘ったが、頭がいいんだから頭を使えという、この文句もその場の雰囲気や観る側の心理をとらえていて、おかしかった。
ちなみに、頭じゃなくて足だったらどうか。
「アシ使え、足はいいんだから」
これだって文句は出ないはずだが、そのボクサーが陸上でならした選手だったら意味合いがまた違ってきそうで、これまた口許がゆるんでしまうだろう。
ボクシングに限らないがスポーツ観戦は知らず知らず力瘤をいれて観るからこそ面白みがあるんだけれど、時として突然おかしみがやって来る。
試合は6回TKOで中森選手が勝った。敗れた藤原選手も恥ずかしい試合ではなかった。誰だって頭は使っている。リングにあがったボクサーなればなおのこと。それでもおかしいものはおかしい。
実はセミファイナルでもすぐ後ろにいた人が大声あげていて、会場観戦では当り前の風景なのだが、これがまたおかしかった。
「手ーぇ出してーぇ、ハイ、今、出す、ハイ、出してーぇ、もう一発、ハイ、ラストーぉ、もう一発、手ーぇ出してーぇ、あと一発ーぅ、今、そーぉ、今、そーぉ、ナイスーぅ、いいよ、ハイ、出してーぇ、ハイ、ラストーぉ」
どこかで聞いたようなリズムだなあ、何かに似ているなあ、なんだっけ。
そう思って、浮かんできたのは幼児と一緒に体操をするお兄さんの号令と、それから、レントゲン撮影技士の方の「はい、(息を)吸って、はい、止めて」という指示だった。もちろん声援を送るほうは懸命なんだが、気楽な身の上の傍観者にはおかしくて愉しい。
こんな調子だから、いつまでたっても観戦記が書けない。
[2004/06/09 記]