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仲介の労をとってくださった方から夕方連絡があり、しかし明日故郷に帰るという報で、仕方なく電話で少し話をした。大和田正春選手との第3戦が忘れがたく、昨年ひょんなことで本が出ることになって、それを書いてしまったと言ったら、気にしなくていいと応えてくれた。
電話を切ったが、どうにも落ち着かず、再度連絡をとり、これから会いに行きたいと言った。夜8時半をまわっていた。知人の方とこれから六本木で食事をして、10時か10時半には帰ると言われた。それなら明日会いたいと言ったが、乗り気じゃなさそうだった。
また電話を切ったが、やはり落ち着かず、三たび電話。これからそちらへ伺ってもかまわないか訊いた。間に合うかどうかわからないが、とにかく行くと言ったら、連れの方が店の住所と電話番号を教えてくれた。急ぎ電車に乗ったが、電車はのろく、時間がたつのは早く、車両の中を走るわけにもゆかず、久しぶりのもどかしさだった。
新橋駅へ着いたのが10時10分。携帯電話で店へ連絡しようにも、あわてていたんだろう、家を出る前に携帯を紛失していた。
タクシーの運転手に所番地を告げて、分るかどうか確かめてから乗り込んだ。麻布台のマンションの1階にあるフランス料理店にたどり着いたのが10時25分。扉を開けようとしたら、扉が開いて、出てきたのが、ひとめ見るなりチャンプだった。
ぎこちない挨拶をして、『あしたのボクシング』を差し出した。家を出るときに取るものも取りあえず、手元にあったものを持ってきた(すみません、ほんとは押入れに突っ込んであった、いや、秘蔵していたものです。近い将来、幻の名著になることを信じています)。
「店内では煙草が吸えないんだ」
そう言ってチャンプは煙草に火をつけた。
あの試合のことをやはり訊いておきたかった。
「大和田選手との第3戦、覚えていますか」
もう20年も前のことだ。
「うん」
「第1戦はたしか6Rかそこいらで、KO負けでしたよね、あのときはノンタイトルでチャンピオンでしたよね」
「うん」
「それで第2戦はタイトルマッチになって、あれは判定でとられたんですよね」
「そう」
「あれから大和田選手は脚光浴びていきましたよね」
「うん」
「それから第3戦になって、あの試合、最終ラウンド、ダウンとられたあと、クリンチに行かずに打ち合いにいきましたよね」
…つづく
[2004/05/19 記]