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■酔田振男の酔いどれ前のひとりごと■

〜『酔いどれオマージュ』をなんとなく書いた男の、ちょっとだけマジメなひとりごと…〜

vol.32 ちょっとしたこと


 1990年12月6日、レパード玉熊は初防衛戦の相手にヘスス・ロハスを迎えた。結果は1-0の判定で引分けだった。

 リング上でインタビューを受けているときに公式採点のアナウンスがあり、玉熊選手はアナウンサーを制して採点に聴き入った。ちょっとしたことだが、あの姿が妙に印象に残っている。

 競った展開のときは、有効打か手数か、テレビはよく言うが、聞き飽きた。身も蓋もない言い方だが、最後はジャッジそれぞれが好みのほうをとるんだろ、どちらの選手が好きかとか、どちらの選手を勝ちにしたほうがいいとか。そういう奥底のことになってきてもおかしくはない。

 リングサイドで観るのとテレビで観るのとでは違うとも言うが、違うのは当り前で、だからといってリングサイドで観ることが公正だというなら、これはまた人を馬鹿にした話になる。リングサイドに陣取った一握りの人間だけが真実を知りえて、立ち見やテレビ視聴者は本当のことがわからないと言っていることになる。

 攻めてるのか逃げてるのか、当たっているのかいないのか、そばで見なくたっておおよそ判るさ。これといったヤマ場もない試合をビデオテープの早送りで見ても勝敗の見当はつく。

 ちなみに会場に足を運んで観るのとテレビ観戦との決定的な違いは面白さの度合いであって、身銭をきって観た試合は長く記憶にとどまる。

 試合が終わって、勝ちはないな、負けはないな、ひょっとしたらひょっとするかも、負けだけど引分にならないかな…いろんなことを自然に思ったらそれが一番正しい。でなけりゃ、先生の顔色を窺って作文を書く小学生みたいになっちまって、ボクシング観ても面白くない。

 渡辺二郎、レパード玉熊、あのマービン・ハグラーも、彼らは世界初挑戦で「負けた」なんて思ってやしないだろ、自分では勝ったつもりでも負けにされることがあるってことをせいぜい知ったくらいだろ。じゃどうするか。あんまり偉そうなことは言えないが、ルールや採点基準、レフェリーやジャッジの癖や嗜好、そんなものを尻目に、もっと上を見据えて次を待ったんだろうよ。

 玉熊選手は次のアルバレス戦で敗れて引退した。スポーツは往々にして結果だけが残る世界だから、あのときインタビューを遮って採点に聞き入ったことが次につながる結果をもたらしていないと見るむきがあるかもしれないが、今でもあの姿を覚えているのは、採点にこだわっているように見えながら、実は玉熊選手から「堂々とした感じ」を受けたからじゃないかとひとごとみたいに考えている。

[2004/03/17 記]



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