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反面、うそみたいなグラス・ジョーで、一発いいのをもらうとそれで終わりだった。
今にして思えば、ぼくらは柴田国明のボクシングをゲームに近い感覚で見ていた。
不幸な生い立ちとか、貧困とか、家族の情愛とか、ハングリー精神とか、不屈の闘志とか、悲願とか苦節とか、そういったもろもろの、湿り気のある要因がなかった。あったはずだが、見る側にかぶさってはこなかった。リング上の顔つきもかん高い声も口調も、一般にイメージされるボクサーのそれではなかった。倒すか倒されるか、ぼくらはただ固唾をのんで、戦況を見守っていればよかった。
パンチは空いているところへ小さく速く、間断なく打ちこまれていった。負けるときは打ち合いのさなか、カウンターを浴びて、こてんと倒れて、それっきり、ぴくりともしない。こんな負けっぷりのいい世界チャンピオンもなかった。
いつぞやテレビで見かけたが、このごろのボクサーはしっかり拳を握っていない、ナックルをきちんと当てていない、そんなことを例の淡々とした調子で言ってたなあ。
二階級制覇だの海外奪取だの名王者を破っただの、そんなこたぁ二の次でいいさ。柴田国明は勝っては負け、負けては勝ち、勝敗の境界線が明確な、デジタル世界のボクサーだった。
その魅力はベン・ビラフロアとの連戦に収斂されている…。
で、近ごろ面白いゴシップを知った。
リカルド・アルレドンド(浜田とやったレネの実兄)との一戦。
挑戦者の柴田はピカピカの一年生みたいな様子で、きょうは勝ちますと言ってリングに入り、言葉通り文句ない判定をおさめた。それまで日本市場で稼いできたハンサムな王者はなすすべなくやぶれて、ぼくらは溜飲をさげたが、アルレドンドはリングサイドの女性(?)が気になって試合に集中できなかったそうな。
終了後、元チャンプはなにはさておきその人のところへ飛んでいき、翌日逢瀬を楽しんだと、スポーツ新聞も報じたらしいが、知らなかったなあ。いきさつを知った柴田陣営は、あなたのおかげで勝つことができましたと言って、彼女にトロフィーを贈った、なんて、ほんとかね。
米倉会長のにこにこした顔が浮かんでくるような珍談だ。
[2004/01/28 記]