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たとえばイベンダー・ホリフィールドの一番の試合は何かというと、これはもう決まっている。1992年11月のリディック・ボウ戦だ。負けたけれど、ボクシング史上に燦然と輝く名試合だ。いちいち説明なんかしない。見ればわかる。わからない人にはいくら話しても、わかったふりはしてくれるかもしれないが、わからない。
いや、違うぞ。マイク・タイソン戦こそ彼のベスト・ファイトだ、あのタイソン相手に真っ向勝負で打ち勝ったんだぜ-----。
そう言う人、いっぱいいるだろうなあ。目の離せぬ試合だったよ。けれどもやはり彼にとって、タイソン戦は最高の栄誉ではあっても、最高の試合じゃない。
タイソンという名前、プロモーターやマスコミが、粉飾なんて言ったら怒るかね、作り上げたボクサー像や舞台、専門家の証言、アナウンサーの絶叫、それらをいったん取っ払おうよ。たしかにね、大一番に至るまでのボクサーの歩みやいきさつは、見る側には大事な要素だけれど、飾りや垣根を自分なりに取り外して試合そのものを眺めてみる。と言うよりも、すてきな試合は、飾りや垣根がいつのまにか勝手に取っ払われてしまって、リングをただただ眺め入るだけになってしまうものだろ、めったにないけどさ。その度合いがボウ戦はタイソン戦を上回っていた。
ダウンを喫した彼がすぐさま猛然と反撃するさまを見たとき、なんだか得した気分になった。あの場面でホリフィールドは寸分の怖気も疑念もなく本気でKOを狙っていたとはあとで知った。それも一発逆転のKOじゃない。はじめから思い描いていたKOだ。
いや、違うぞ。思いつきでモノを言ってはいかん。ボウとタイソン、その技量、知名度、注目度、スター性、ドラマ性、どれをとってもタイソンだ。ホリフィールドは、歴史に名を残すボクサーと雌雄を決する勝負を見事に演じて勝ちきった。ボウ戦は風雪に消えていくだろうが、タイソン戦は残る。
るせえなぁ。消えようが残ろうがどうだっていいよぉ。おれがいいといったらいいんだよぉ。ホリフィールドのベストファイトは、誰がなんと言おうと、ボウとの初戦だよぉ。おれはこれでいいんだよぉ。タイソン戦がダメだなんてひとことも言っちゃあいねえよ。
あんたはタイソン、おれはボウ、それでいいじゃないか。歌が聞こえりゃ文句はない。さ、呑みなおそうぜ。正月だ、鶴は千年亀は万年、めでてえや。
[2004/01/07 記]