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遠ざかっていたボクシングに話を戻す。 木村登勇は、高校3年生のインターハイでベスト8という実績を残している。ということは、高校のボクシング部でもエース格の選手だったはずだ。しかし彼は3年生になるまで、ボクシング部で練習したことはほとんどない。基本に忠実でない、トリッキーなスタイルが顧問の教員の反感を買ったためだろうか。 「いや、そういうのじゃないんですよ。ぼく、別のところでも週に1回(ボクシングを)やっていて…。で、掛け持ちするなら来なくていいって言われちゃって。中2でボクシング始めたんですよ。毎週木曜日に近所でボクシング教室をやっていて、友だちに『週に1回だからいいでしょ』って誘われて。それではじめてボクシングって面白いって思って、のめり込んだんですよ。だから高校もボクシング部のある学校に進んだんです。でも、顧問の先生がそういう人だったので(締め出しを喰らった)」 結局、3年生に進級してクラブの顧問が替わるまで、木村はいつもひとりで練習することになった。 「ひとりでも、いろいろ考えながら練習できるし、苦にはならなかったですよ。ボクシング、楽しいですからね」 とことん、マイペースなのだ。とはいえ、教師の「仕打ち」に対して思うところがなかったのだろうか。「どうだ、おれひとりでもベスト8獲ったぞ」というのは…。 「それはまあ、少しはあります(微笑)」 「サウスポーの方が有利とか、そういうんじゃないんですよ。左構えの方が打ちやすいから? そういうのともまた違って…。その、中学生のときから通っていたボクシング教室で、はじめてスパーリングをやったんですよ。いまから思えばあれはマス・ボクシングなんですけどね。 高校を卒業後、地元のジムからプロデビューを果たす。数年後、いま所属する横浜光ジムへ移籍するのだが、このときの理由もまた振るっていた。 横浜光といえば、比較的歴史の新しいジムにも関わらず畑山隆則、新井田豊という2人の世界チャンピオンを生んだジムである。潤沢な資金力も、試合のチャンスにも恵まれている。しかし、木村登勇はそんなこと(これらはかなり重要なファクターだと思うのだが…)で移籍を決めたりはしない。 「よく(同じ青森県出身の)畑山さんがいたから? とか聞かれるんですけど、そうじゃないんです。ぶっちゃけ、移籍先はどこでもよかったんです。ぼく、一時期仙台ジムにいたんですけど、そのときにロイヤル小林さん(現横浜光ジムトレーナー。強打の日本ライト級ランカー、石井一太郎を育成)がいたんです。で、どうせなら知っている人がいるところの方がいいかなーって思って…。ひとりで知らない所に行くのって心細いですよね(笑)。だから」 敗れはしたものの、当時すでにリック吉村(石川)の持つ日本タイトルにも挑戦した、れっきとしたランカーである。「地方のジムでは試合のチャンスが少ないから、実績のあるジムへ」というのなら分かる。だが、理由は「ひとりだと心細い」。思わず脱力してしまうような移籍先選びに、好感を抱いてしまったのは私だけだろうか。 とにかく、結果論ではあるが力のあるジムへの移籍を果たし、金昌龍トレーナーという理解者を得て、木村登勇・第2のボクシング人生が幕を開けた。日本ライト級王座獲得、その後スーパーライト級へウェートを上げ2階級制覇を達成といった活躍は知っている人も多いだろうから、あえて多くは触れない。ていうか、その辺の話は専門誌が書いてるからそれを読みましょう。次回はまた脇道へと逸れていく予定なので、お見逃しなく。 (まだ続く) [2005/05/26 記] 協力;横浜光ボクシングジム
ところで、木村はいわゆる「右利きサウスポー」だ。恥ずかしながら、私はそれを見抜けなかった。本人から聞くまでは。
そのときぼくはオーソドックスだったんですけど、最初にやった相手がサウスポーだったんです。しばらくその人とやったあと、はじめてオーソドックス相手にスパーしたら、なんか変だったんですよね。自分にとっては相手と向かい合うのって、そういう(鏡を見ているときのような)状態が自然なものになってしまっていたんですね。それで、『じゃあサウスポーに変えちゃえ』と」 こういうコンバートの理由を、少なくとも私は初めて聞いた。希少価値を生かすため、強い利き腕でのフックを生かすためというのが、右利きサウスポーの定説だったと思うのだが。これを自然体というのかどうか、私は知らない。そのころ彼は中学生だから、戦略的な意図はなかったろう。言ってみれば「快適性」を追求した果てのコンバート、かなり珍しい。
special thanks;Yokohama Hikari Boxing Gym