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■鈴木成章の“なんとなくマニアック”

〜文化系ボクシングマニア・ライフワークの記〜

vol.03 PFP最強コミック


 今回は「パウンド・フォー・パウンド」とか「オールタイム・ランキング」などと言って、ボクサーの実力を比較する風潮に一石を投じたいと思う…というのはすこし嘘。それはさておき、ボクサーのいわば「格付け」があるのなら、ボクシング漫画のそれがあってもいいのではないだろうか。


 
 というわけで今回のテーマは「最強のボクシング漫画を探せ」。

「何言ってんだ。そんなもん『あしたのジョー』(高森朝男、ちばてつや)で決まりじゃねえか」という声が聞こえてきそうだ。もちろん、この作品が世代を越えて支持され続けている名作であることは否定しない。

 しかし、である。これまでこのコラムを読んでくださっている物好きな皆様(いるのか?)は、もうおわかりだろう。私はそんなオーソドックスな選び方はしないのだ。十人十色。それぞれの「ベストなボクシング漫画」があったってよいではないか。そうさ〜ぼくぅ〜らは世界でひとつだ〜けの花♪(古っ…)こういう風に書けばJASRACだって怖くない。


 
 話が脇道にそれたので元に戻す。「ジョー」といういわば「ジョーカー」を出してしまったら(ダジャレじゃないから。まだそんなに老けこんでないから念のため)、面白くもなんともないのだ。たとえば私と同年代(30代前半)なら『がんばれ元気』(小山ゆう)を推す人もいるかも知れない。最近の子ならやっぱり『はじめの一歩』(森川ジョージ)支持派が多数を占めるだろう。

 また、少しひねくれたマニアな御仁は『青の戦士』(狩撫麻礼、谷口ジロー)と言うかも知れないし、SF好きな人なら『リングにかけろ』(車田正美)かもしれない。壮大な大河ロマンを愛する向きは「『B・B』(石渡治)こそが最高だ」と思うのだろうか。中高生の童貞マインドを刺激した『のぞみウィッチィズ』(野部利雄)が好きという人とは…友達になれそうにない、かな。


 
 ここまでに挙げた作品は程度の差こそあれ、既に時代の洗礼を受けて生き残ったと言えるだろう。「クラシック」と呼んでも差し障りないものが多い。もちろん全部じゃないけど。これらの作品すべてに共通して言えることがある。それは「圧倒的なリアリティーの欠如」だ。

 それが「いけないことだ」というのではない。むしろ逆。よくあるでしょ、「リアルな」とか「等身大の」という形容詞を持って語られる青春もの。小説でも映画でも、なんでもいいんだけど。もちろん、そんなものは嘘に決まっている。「リアル」は生々しくて気持ち悪いものだし、「等身大」ではしみったれすぎてる。

 みなさん、おのれの青春時代を思い出してください。ほら、走馬燈のように脳裏を駆けめぐるでしょう。苦〜い汁にまみれた「ジュブナイル」が。もちろん、私もそのひとり。つまり、そういったキーワードで語られる作品というのは現実から「あったらいいな」という方向に半歩、踏み出すことでそういう「甘酸っぱい世界」を構築することに成功しているのだ。

 そう考えると、先述の作品群は明らかに違う。そしてそれは、いいことなのだと思うのだ。だって漫画って束の間の夢を見させてくれるエンターテインメントでしょ。夢だったらバカバカしいくらいにスケールでかいほうがいいじゃん?

 日本人が統一王者になったって、アル中のボクサーがデュランをKOしたって、さえない高校生がベルトとおっぱいの大きな女子をゲットしたって、それはあくまで妄想の世界なんだから。ことボクシング漫画に関しては「あり得ねえ!」の声がでかければでかいほど、楽しめるような気がするのだ。

 …と、いままでは思っていた。しかし最近、その考え方を少し改めてもいいかなと思える作品に出会った。『Big Hearts』(林明輝)がそれ。いわゆる「等身大青春もの」のフォーマットにきっちり則った佳作。スーパーヒーローの出てこないボクシング漫画。既に読まれた方も多いと思うので説明は省略するが、未読の方は絶版になる前に書店に行かれることをお薦めしたい。ていうか、売れてなさそう。個人的には『一歩』や、『あいしてる』の焼き直しのような『パラダイス』(2作とも守村大)のはるかに上を行く作品だと思う。


 
 というのが今回の結論だと思われた方、残念でした。それじゃ「なんだ、こいつもフツーのチョイスしかしてねえじゃん」って思われてしまうので。そういうわけで、鈴木が選んだ「この10年間で最高のボクシング漫画」の発表!

 それは『西洋骨董洋菓子店』(よしながふみ)です。

「なんだよそれ、少女漫画じゃねえか」とか「それボクシング漫画じゃないぞ」という声が聞こえてきそうだが、それは正しい。ていうか、いわゆる“ボーイズラブ”漫画だ。でもね、『ジョー』や『一歩』はボクシングをモチーフにした青春群像だし、『リンかけ』はSFでしょ。ならば、これが私にとっての「最高のボクシング漫画」であっても、ぜーんぜんおかしくないのだ。

 テレビドラマにもなったんだけど、これはさすがに読んだことない人が多いだろうと思うので少しアウトラインを説明します。幼少時に誘拐&性的虐待(たぶん)を受けて心に傷を負った元商社マン(財閥御曹司)が、犯人を見つけるべくケーキ屋を開業する。スタッフはゲイの天才パティシエと見習いのボクシング世界チャンプ、そして主人公の実家の住み込みだった男。


 
 ね、出てきたでしょ。ボクサーが! せっかくだからもう少し。ドラマでは滝沢秀明が演じていました。ケーキ好きな天才ボクサー、神田エイジは最短記録で王座に駆け上ったものの、防衛戦で勝利を飾った直後に網膜剥離が発覚して引退。ある日偶然見かけた求人に応募して、物語の舞台となる洋菓子店にパティシエ見習いとして入ることになる。

“ボーイズラブもの”だからボクシングの場面なんてほとんど出てこない。でも、ボクシングが好きな人も嫌悪感を抑えて、エイジに焦点を絞って読んでみてほしい。意外にも彼が「ボクサーだった」ことが重要なファクターになっていて、グッときます。それにこの漫画、作品自体のクオリティーが異常に高いのだ。キャラクターの能力の初期設定が高めに設定されているので、物語の展開がダイナミック。しかもバリバリに張りめぐらされた伏線がバッチリ生きているので、引き込まれるように一気に読んでしまえるのだ。つまり、ボクシング云々は別にして漫画として面白い。

「おまえは『最強のボクシング漫画を探せ』って言ってなかったか?」と言われそうだが、ちょっと待ってほしい。いくらボクシングが題材だからといって、肝心のお話がカスカスだったら意味ないでしょ。『ジョー』だって『元気』だって、ボクシング漫画である以前に漫画として面白かったから多くの人の心をつかんだわけですよ。よって、この結論はあながち見当はずれでもないのだ。

 ちなみに極私的野球漫画ナンバーワンは『ボブとゆかいな仲間たち』(パンチョ近藤)。時代を半歩先取りしたメジャーリーグものです。

[2005/04/01 記]



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