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デビュー前のグリーンボーイ(『あしたのボクシング』編集者)が、“アンタッチャブル”の異名をとった元世界ジュニアバンタム級チャンピオン、川島郭志・川島ジム会長から「ボディ打ち」を学ぼうという図々しい企画。受講する霜山綾司は、(2003年)5月15日にデビューするプロボクサーだ。試合当日、貴重なアドバイスを生かせるのか!?
相手のパンチを外して打つ −−今回ご指導いただくメインテーマは、ボディの攻防なのですが、川島さんが「これはよく使った」というボディ攻撃には、どのようなものがありますか。 川島 僕はサウスポーなので、左のボディストレートは結構使いましたね。 霜山 川島さんの左ストレートは、オーソドックスの僕の場合右になるわけですよね。その場合はやっぱり上を見せてからですか。 川島 もちろん、もちろん。上を見せておいてから下です。 霜山 左フックをいきなりボディに、というのはどうなんですか。 川島 うーん、例えば俺の場合だと、相手の力を利用するというか、右ストレートをヘッドスリップとか、ダッキングで外しておいてボディに左アッパーっていうのはよくやったね。 霜山 僕はいまのクラス(S・ライト級)では背が高いほうなので、遠い位置から左ボディを狙いたいんですが、どう打てばいいですか。 霜山 接近戦などで、相手が入ってきた時のボディ打ちへの対処はどうしたらいいですか。 川島 接近されたときはブロックするということになるけど、相手の左ボディに右アッパーを合わせるという方法はあるよね。怖さを教えるというか「左ボディを打つと、右アッパーが飛んでくる」ということを相手に思わせる。逆にそういう怖さがないと相手はどんどん打ってくるからね。だから僕もブロックしたらその手ですぐ打つという練習をやったね。これは一つの作戦だからね、外からきたら中から打つと。一度もらうと相手もわかるでしょう。 −−相手にそういうイメージを与えておくというのも戦術の一つですか。 川島 そうですね。そうすると、なかなか相手も打てないですよ。僕なんかは、ブロックした手ですぐにアッパーを打つというのを、ミットでも練習してましたから、試合でも自然に出ましたね。 霜山 僕は、ブロックすると逆の方の手で打ちたくなるんですが。 川島 相手だってガードしてるからね。でもガードした手ですぐ打てば、相手の手はまだ戻ってないから。当たりやすいよね。相手が右を打ってきたらブロックして、その左手ですぐにアッパーを打つとかね。防御でもあるし、最大の攻撃でもある。攻防一体だよね。 霜山 相手のボディ攻撃に対する有効なカウンターとなると、やっぱりアッパーですか。 川島 それはいろいろあるよ。例えば、ジャブで距離を計っておいて、入ってくるところに右ストレートも狙えるしね。 −−ボディブローを受けないためには、距離をとることが大切なんですか。 川島 そうですね、距離を取れればそう打たれるものじゃない。 霜山 その距離感というはどう養っていくんですか。もう天性みたいなものですか。 川島 ジャブの交換だよね。ジャブの交換で相手の手が長いとか、短いとかがまず分かる。そこから相手の距離を見極めることが大事だよね。そのためにジャブを打つんだから。ジャブというのは、(ジャブを打つ動作をしながら動いて)これで相手を探るという…虫でいうと触覚だよ。 霜山 スパーで僕より小さいのに相打ち覚悟で打ってくる相手がいるんですけど、それは自分の距離が近いんですか。自分の距離じゃないんですかね。 川島 それは、君が向こうのパンチを外してないからだよ。 霜山 でもこっちのパンチも当たっているんですよ。こっちが打つと向こうも打つ、それがいやなんですけど。 川島 それはやっぱり外さないと(笑)。距離だけで避けようとして、頭の動き、手の動きがないから狙ってくるんだと思うよ。相手にすれば、当たるから打ってるんだと思うよ。 いきなりのボディは危険 霜山 自分からボディを打つときの注意とかはありますか。 川島 基本的には相手のパンチをもらわないで打つってことだね。それをやるにはフェイント使って、相手に先に打たせておいてその流れの中で打つと。なかなか難しいけどね、4回戦をこれからやろうという選手には。練習と体のリズムで感覚を覚えるしかないよね。 −−いきなりのボディ打ちはリスクを伴うと。 川島 はい。相手が何か動作を起こしたときに打つっていうのは難しくないけど、自分から仕掛けるとなると、フェイントなり相手に何か見せておかないと難しいね。こっちがもらう可能性がでてくる。 −−彼はデビュー戦を控えてるんですが、それだと特に舞い上がった状態になるということもありえますよね。 川島 なりますよ。でもやっぱり、そういう時にこそ普段練習していることが出るんですよ。これを打ったら必ずボディに返すとかね。 −−相手のパンチを外してボディというのが基本ですか。 川島 そうですね。ディフェンスを交えたボディ打ちですよ。左にダッキングして左ボディ、さらに顔面への右フックとか。そして打った後はディフェンスです。普段サンドバッグを打つときからそういう練習をしておけば、試合でもそれが必ず出ます。サンドバッグからは手が出てこないからいくらでも打てるけど、人からは拳が飛んでくるからそうはいかないよね。もう体が覚えているから。 コンビネーションで打つ −−会長の場合サウスポーということもあって、狙いはレバーよりも鳩尾ですか。 川島 レバーから鳩尾ですね。わき腹(左わき腹)のように効かないところを打つのは、有効とはいえないと思いますね。 −−わきは打たないもんですか。 川島 できるだけ中(内側)ですね。そして基本的に上から下とか、下から上とかに返すパンチは有効ですよね。強いパンチを「ガン、ガン」と打つより、上に軽く打っておいて下に強いのとか、顔面にアッパーを突き上げておいて下とかね。そういうコンビネーションを一つ持っていたらいいですよね。 霜山 一つ覚えるとしたらどれがいいですか。 川島 やっぱり「上から下」じゃないかな。左フックを上に見せておいてレバー。それも遠い距離からやるのは難しいからね。ある程度接近したときに。昔、鬼塚君がよくやってたね。彼はガードを固くして相手を接近させてこれを狙ってたね。 −−下から上っていうのはタイソンがよくやっていましたが、あれはタイソンレベルだからこその技ですか。 川島 そうですね。しかもあれは両方強烈でしたしね(笑)。ボディが効いてうずくまったところに右アッパーですからね。 −−こういうルーキーが目指すにはちょっとまだ早いですか。 川島 普段からやっていれば絶対出ますよ。普段のトレーニングでそういう打ち方を練習しておくべきですよね。 −−常にそういうイメージを持って練習することが大切ということですね。 川島 ありきたりかもしれないけど、そうです。そして上下の打ち分けというものをトレーニングに加えると有効だろうと思いますね。見た目もいいですからね、コンビネーションで打つと。ジャッジにアピールできるっていうのも一つですね。 ボディブローの効果 川島 基本的に相手のスタミナや戦意をなくすというのが、ボディブローの効果だと思うので、そのあたりを考えて利用してもらえればと思いますね。 −−やっぱり効かなくてもいやなものですか。 −−ジワジワ効いてくるというのはどんな感じなんですか。あれ、足が動かなくなってきたなとか自覚するものなんですか。 川島 いや、ジワジワじゃなくて直で来ることもありますよ。僕なんか4回戦の選手とスパーリングやって、まともにもらってたまに効いちゃうときがあるんですよ。効いた顔はできないんですが(笑)。体の力が抜けている時にもらうと、4回戦の選手ととやってもそういうことはありますね。 −−決まるところに決まれば、ジワジワどころか、その一発で効いてしまうと。 川島 そうです。相手が打とうとしているときに入ると効くんですよ。防御しようとして体に力を入れているときは効かないと思いますね。ボディを鍛える練習のときなんて「くるぞ」って力を入れて構えているから効かないんですよ。体の力が抜けているときが効くタイミングでしょうね。あと、地味ですが左のボディアッパーが効くんですよ。こっち(右ボディ)の方が音は派手なんですけどね。 −−あと、ボディを鍛えるにはいわゆる腹筋運動ですか。 川島 僕も毎日300回くらいやってましたけど、でもやっぱり人に打ってもらうことがいちばんですね。そうすると強くなってくるんですよ。もちろん見た目の筋肉というか、筋肉の鎧を作るのも必要かもしれませんが、それだけじゃやっぱりダメじゃないですかね。 −−引き締まった腹筋を見ると「これは効きそうにないな」、なんて思ったことはないですか。 川島 いやー、どんな体でも一緒ですよ(笑)。 −−タイミングよく、当てるところに当てれば効果はあると。 川島 そうです。 −−一般に体が薄いと弱い、厚いと強いなんて聞きますが、会長の中でそういう経験などはありますか。 川島 たしかに言いますね。でも「こいつはボディが効きそうだな」なんて思いながら僕 は試合をやってないですからね。打ち分けるっていうのが僕の攻撃の基本ですから、その中で効いてくれればいいなっていう感じですね。 参考・サウスポー対策 霜山 今回のデビュー戦はオーソドックスが相手なんですが、仮にサウスポーが相手だとするとポイントはどういうところになりますか。 川島 サウスポーは右に回るし、オーソドックスは左に回ろうとする。 −−お互いぶつかる方向に回ろうとするわけですね。 川島 そうです。だからリードブローの突き合いで勝つということですね。でも、だいたいサウスポーが勝つことが多いんです(笑)。右の選手でサウスポーが得意という選手は少ないでしょうね。 −−日常的に対戦に慣れていないからですか。 川島 そうです。それと(サウスポーの)左ストレートをまともにもらう。これが一番悪いことですからね。 −−遠い手同士でもサウスポーの左が当たりやすいんですか。 川島 オーソドックスの選手は右を当てよう、当てようとして、正面に立って足が揃っちゃうんです。半身だったのが、だんだん前に来ちゃう。これが一般的な右の選手の悪いところです。サウスポーを苦にしない選手というのは、やっていて分かりますね。右ストレートだけ見ても流さないですから。 霜山 ちなみに川島さんが長身ボクサーと戦うとしたらどう戦いますか。 川島 やっぱり出入りを速くするね。 霜山 相手にリーチがあると入りにくくないですか。 川島 それはウィービングやダッキングを使って入り込むよ(笑)。 霜山 逆にどうされれば嫌ですか。 川島 パンチがある上に、自分の距離で戦う選手かな。近づくとクリンチするとか。そういう選手は嫌だね。自分より距離感の遠い選手はやりづらいよ。 4回戦の戦い方 −−彼の体型を見ての印象というか、こういうやり方をすればいいんじゃないか、というようなことはありますか。 川島 やっぱり左ジャブを巧く使うボクシングをした方がいいですね。相手に巻き込まれずに。でも、デビュー戦ではそれもなかなか難しいでしょうけどね。一発もらっただけで泡食っちゃうからね(笑)。で、どんどんガードが下がってきちゃう。最初にも言ったけど、普段の積み重ねだからね、しっかりガードを上げておくことだね。 霜山 川島さんは試合のとき相手のどこを見てますか。 川島 目だね。スパーでも「今日はダメだ」っていうときは、たいてい目が離れているね。 −−まず注意するところはディフェンスですか。 川島 うーん、攻撃は最大の防御だと思いますね、4回戦の場合は。ファイティング原田さんみたいに、12分間手を出し続けることができれば勝てますよ。だからある程度攻撃に重点を置いて、その上でディフェンスですね。 霜山 4回戦だとボディで「じわじわ」なんて時間がないと思うんですよ。そうすると、ボディブローの役割は上に当てるための布石、という意味合いですか? ボディで倒そうとか思わないで…。 川島 流れの中で下、上、下とかね。そういうのを必ずひとつ入れていけばいいね。例えば、4つ打つコンビネーションがあると、その中に必ずボディを1つは入れていくとか。攻撃の基本だよね。 −−相手のイメージを持ちながら練習することが大切だと。 川島 そうですね。シャドーなどで相手、ディフェンス、攻撃のイメージをしながらボクシングするということが大事です。コンビネーションもある程度パターン化したものを1つ持っておけばいいですよ。これをやるにはスタミナがいりますから。毎日しっかり走らないと。 霜山 4回戦の選手には何キロくらい走るように言っているんですか。僕は800メートルを3分で走ることは取り入れているんですけど。 川島 それは4本やるの? 霜山 はい。 川島 5本以上やったほうがいいな(笑)。本番では絶対にそれ以上スタミナ使うから。多いほうがいいよ。倒れこむくらいやったほうがいい。ところで、試合はいつ? 霜山 5月15日です。 川島 あ、うちの選手も出る日だから見られるな。がんばってね、楽しみにしてるよ。 霜山 ガードをした方の手で打つというのは勉強になりました。余裕があったら使います。 川島 余裕があったらね。無理に使おうとしないほうがいいよ(笑)。 霜山 あ、はい…。ありがとうございました!
川島 うまいやつなら合わせて左フックを引っ掛けてくるよ。相手の打ち終わりを狙うのが一番有効じゃないかと思うね。打たせないことが大前提だったから。打たすんだったら、はずしておいて返すということを考えてたね。
川島 いやだと思いますよ。「ボディ狙ってきてるな」というのは。
受講を終えて
本題の“ボディ打ち”以外にも川島会長から貴重なアドバイスをもらい、
「いやー、意識が変わりました」と、帰り道では“目からうろこ”状態の霜山。
「打ち方とか、体の入れ方みたいに自分が打つときのことを聞こうと思ってたんですが、川島さんからは『ここが狙われる、危ないよ』という、常に相手を意識した答えが返ってくるじゃないですか。“自分、自分”になっていて、僕にはそういう意識が足りなかったですね。当たり前のことなんですが、ボクシングは相手ありき≠フスポーツなんだということを感じさせられました」
ボクサーの表情で熱く語る霜山だが、川島会長から手取り、足取りの教えを受けたのは本人も言うように「ラッキー」以外の何物でもない。これを仕事と称して聞きに行った図々しさを試合でも発揮してほしい。
今回の“取材”を活かし、栄えあるデビュー戦の舞台で高々と手が上がったのかどうか。気になる(なんないか…)その詳細は、もし出せたら次号で!
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※2003年4月、川島ジムにて
取材・構成/下堂伸二
<あれから、はや1年・・・C級ボクサーのつぶやき>
最終4R、残り30秒。オレのデビュー戦で放ったボディブローらしいボディブローはこの一発だけだったかも知れないね。いきなりのボディ打ちって、怖いから出せなかった。川島さんはしきりに、相手のパンチを外してからのボディ打ちを説明してくれてたけど、試合の時はやっぱり頭に無かったのかな。
じゃあ、1年たって今できるか? 5月26日にバシッと決められるのか? って言われると無言になっちゃう。ボディへの意識がまだまだ開発されてないから。ここのページは今でもまだまだ読み返す必要があるし、だからオレにとってもいつまでも色褪せないものになってるね。
[2004.4.2 記]