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「これで分かったろう。ホリフィールドはレノックス・ルイスと闘うのが怖いんだ。今回は彼が1月に要求したファイトマネー、2000万ドル(約29億円)を提示したにもかかわらず、2500万ドル(約36億2500万円)と値段を吊り上げ、結局統一戦に合意しなかったのだから。おそらく、彼は次に3000万ドル(約43億5000万円)と言ってくるに違いない。これはカネの問題じゃない。ホリフィールドはルイスに怯えているのさ」 7月上旬、レノックス・ルイス(WBC世界ヘビー級チャンピオン)のマネージャーは、皮肉たっぷりにこうまくし立てた。 昨年末から噂される、ルイスとWBA/IBF世界ヘビー級王者、イベンダー・ホリフィールドとの統一戦は、再び交渉が決裂した。これによってルイスは、9月26日にクロアチアのゼリコ・メイブロヴィックという格下を相手に、4度目の防衛戦を行うことが決定した。 ルイスの溜め息が、聞こえてきそうである。 彼は私との会話のたびに、ホリフィールド戦を熱望し、自らのオファーに決して首を縦に振らないもう一人のチャンプへの挑発を続けていた。 前回の防衛戦も、一時は統一戦が具体化されたのだが、ホリフィールドサイドがサインを拒んだため、急遽代役を相手に試合をこなしたのだった。 目標を失ったルイスは、ゴング早々あわやダウンというところまで追い込まれた。自慢の強打を爆発させ、逆転KOを飾ったものの、内容は決して褒められたものではなかった。 ルイスは、口癖のようにそう語る。次の試合を迎えるまでに、33歳となる彼にとって、このままつまらない相手とつまらない試合を重ねていくことは、時間の浪費でしかない。ボクサーのピークは短い。なんとか上り調子のうちに、ホリフィールド戦のリングに上がらせてやりたいものである。 「オレを避けてる人間を真のチャンピオンなんて呼べるか? ヤツの子供たちは、意気地のない父親を持ってかわいそうだぜ。カネ、カネ、言いやがって。チャンプにとって大事なのは、カネよりプライドだろう」 9月26日は、順当ならルイスがKOで防衛を果たすだろうが、この状態のまま試合を行えば、彼は再び自らの評価を下げてしまうかもしれない。今のルイスには、ホリフィールド以外は視野に入っていない。これまで積み重ねてきたものを水の泡としないためにも、雑魚を相手に妙な躓き方だけはしないでほしい。 ここ1〜2年の両者を比較しながら、私なりに予想を語らせてもらうなら、ルイスにとって、ホリフィールドは組みやすい相手である。ルイスが本来の力を発揮しさえすれば、ヘビー級統一王座のイスに座ることは、十分可能だ。もっとも、試合が実現すればの話だが。 現在の彼にとって切実なのは、観客動員数である。イギリス、カナダの二重国籍者である彼は、アメリカ人から評価されにくい。ルイスの試合を見にいくたびに驚かされるのは、アメリカンファンが彼に浴びせる、ブーイングの大きさである。アメリカ人は、母国のファイターを応援し、自国選手を叩きのめすルイスは、悪役としか見られないのだ。 ボクシングの本場は、なんといっても合衆国である。そのアメリカで、ヒール(悪役)であるルイスの活躍を、カネを払ってまで見ようとする人などあまりいない。そしてそれは、ファイトマネーにもつながっていく。今後もルイス側は、ホリフィールド戦にこぎ着けるまでに、いくつもの難題をクリアしなければならないだろう。 では、合衆国の誇るチャンプ、イベンダー・ホリフィールドは何を考えているのだろうか? ホリフィールドは、昨年6月28日にWBAタイトルマッチでタイソンに耳を噛みちぎられた後、11月にIBF王者マイケル・モーラーを下して2冠を達成した。しかし、タイソンには一方的に試合を進めることができたものの、モーラーには大苦戦だった。さほど威力のないジャブを無数にくらい、ヨロヨロと後退する姿はハッキリと限界を感じさせた。 ボクシングの世界には“噛み合う”という言葉がある。ホリフィールドにとって、これ以上ないほど噛み合う相手が、マイク・タイソンなのである。 96年11月9日、ホリフィールドがタイソンの持つWBA世界ヘビー級タイトルに挑戦したとき、彼の勝利を唱える者はいなかった。心臓疾患で一度引退しながらこの試合を迎えたホリフィールドは、すでに「過去の選手」と見られていたからだ。が、タイソンをメッタ打ちにして劇的な勝利を_んだホリフィールドは、プロ入り12年目にして、ようやく自分の時代を手に入れたのであった。 この試合によって、モハメド・アリと並ぶ記録である世界ヘビー級タイトル3度獲得という金字塔を打ち立てた彼は、名実ともにアメリカの英雄となった。 「世紀の噛みつき」となったタイソンとのリマッチも、ほとんどのファンはホリフィールドに声援を送っていたものだ。 だが、モーラー戦以降、その人気にも陰りが見え始めた。やはり、ホリフィールドは、タイソンほど客を呼べる選手ではないということか。あるいは、タイソン戦や統一戦のようなビッグマッチでしか注目を集められないのだろうか。事実、6月6日にマジソン・スクエア・ガーデンで予定されていたヘンリー・アキワンデとの防衛戦などは、チケットの売れ行きが6割程度までしか伸びず、関係者を困惑させた(この試合は、タイトルマッチの前日にアキワンデがB型肝炎と診断され、突如中止となった)。 ホリフィールドが人気を回復するためには、再び、“メガバトル”と呼べるようなファイトが必要だ。彼にしてみれば、分の悪いルイスよりも、楽にカネを稼げる相手、タイソンとの3戦目を望んでいることだろう。また、衰えは本人が最もよく理解しているに違いない。35歳の彼に、十分な時間が残っているわけではない。 タイソンは、7月29日にニュージャージー州ボクシングコミッション、並びに司法局に出向き、ライセンス再申請の手続きを行ったものの、後にこれを撤回。改めて、彼に処分を下した、ネヴァダ州コミッションに申請し直すという不可解な行動をとっている。 アメリカのメディアには、「相変わらず何をしでかすか分からない男」と形容されているが、自分でもどのようにカムバックすればいいのか分からない様子だ。 いずれにしても彼は、ライセンスを手にすることができるだろう。話題性、観客動員数から考えても、やはり、タイソンは現在のボクシング界になくてはならない存在である。 「世紀の噛みつき」の現場にいた私は、タイソンに大きな失望感を覚え、彼にはこれ以上ボクシングを続ける資格がないと感じていた。 数日後、あの試合を裁いたレフェリー、ミルズ・レインに意見を求めると、彼はこう語った。 「これはタイソン個人の過ちであって、ボクシングそのものは何の問題もない、素晴らしいスポーツだ。しかし、彼が反省し、今後同じ間違いを繰り返さないと誓うなら、もう一度復帰のチャンスを与えるべきだ」 普段の生活でも裁判官を務める人物の言葉だけに説得力があったが、私個人としては「あれだけの舞台でボクシングを愚弄した男に、情けなど必要ない。レイン氏は甘い」という印象を持った。 が、おかしなことに月日がたつにつれ、もう一度タイソンのファイトが見たくなった。恋しくなった、と言ったほうがいいかもしれない。ルイスと親しくなり、彼が95秒KOで2度目の防衛を飾った姿や、48歳のジョージ・フォアマンが25歳の若手を攻略したファイト(結果は疑惑の判定でフォアマンが敗れてしまった)に感動させられはしたが、タイソン戦を見るときに感じるような興奮は、どうしても得られないでいた。 タイソンが謹慎となって8カ月が過ぎた頃、彼がプロレス団体、WWFの興行に参加するというニュースを聞いた私は、その姿を見ようとマサチューセッツ州ボストンへ飛んだ。 ショーが終わり、プロレスラーとともに記者会見に現れたタイソンを目にした私は、その存在感にただただ圧倒された。 タイソンを見ていつも感じることだが、同じ人間とは思えないのである。野獣というか、動物を見ているような気分なのだ。敢えて言えば「マイク・タイソンという名の獣」と表現できようか。 「一晩に24人の女と寝た」「9歳から12歳までの3年間で51回逮捕された」「小学生で銀行強盗を働いた……」。そういうエピソードにも驚かされてきたが、彼の醸し出す雰囲気そのものが、私には強烈過ぎるのである。しかも、あの「噛みつき」によって、何をしでかすか分からない男、というイメージが新たに植え付けられているから、さらに野性味を増しているように思えた。 この獣も32歳になり、ボクサーとしてのピークは確実に過ぎた。ホリフィールドの衰えにもよるが、雪辱するのは難しいだろう。WWFに登場した3月下旬の彼は、ホリフィールドとの2戦目より11キロも体重が増え、ふっくらとしていた。おそらく、ブランク中に、練習らしい練習は行っていないだろう。かつて、常用していたマリファナなどを吸っている可能性もある。 “歯”を使えないとすれば、今度は何をしでかすのか……。タイソンに関しては、ファイターとは別の興味をそそられる。 レノックス・ルイス、32歳。イベンダー・ホリフィールド、35歳。マイク・タイソン、32歳。彼らが初めてヘビー級のチャンピオンベルトを腰に巻いたのは、それぞれ、6年前、8年前、12年前と、もはやひと昔前のことである。 今、彼らを脅かす、若きチャンピオン候補が見当たらない。この3人のジェネレーションが終わりを告げると、ヘビー級は“冬”を迎えることになるだろう。 だからこそ、彼らの激しいぶつかり合いが見たい。消えゆく炎の最後の灯(ともしび)のように、生き残りをかけた、サバイバルを見せてほしい。 ヘビー級戦線は、ついに終盤を迎えた。最後に笑うのは、いったい誰だろうか。 〜『PENTHOUSE』1998年12月号より
「一日も……いや一刻も早くホリフィールドと闘い、オレが“最強”であることを証明したい」
「最強」の地位と名誉を求め、ホリフィールド戦をアピールするレノックス・ルイス。実現したのは99年3月だった。
そして、「噛みつき」によってプロボクサーの資格を失い、浪人中の身だったマイク・タイソンも、ついに復帰に向けて動き始めた。
ファンを失望させること多々。すっかり「何をしでかすかわからない男」のイメージが定着したタイソンだが、時が経つとこの男のファイトが恋しくなる…!?
<当時を振り返って・・・>
タイソン、ホリフィールド、ルイスのジェネレーションに代わる次世代のトップヘビーと言えば誰なのだろう? クリチコ兄弟と…ロイ・ジョーンズ・ジュニアか。
ジョーンズは別格として、ついに<冬の時代>がやって来てしまった気がしてならない。
[2003.12.22 記]