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「ぜひホリフィールドと闘いたいんだ。ヤツを倒してヘビー級のベルトを統一するのが当面のオレの目標だからね」 ハキハキとした口調でWBCチャンピオンのレノックス・ルイス(32)は語った。今まで出会ったどのボクサーよりもジェントルマンで知性を感じさせる男である。身長196cmというヘビー級の中でも恵まれた肉体、そしてハードパンチを備えている。 だが、ルイスがヘビー級の主役として注目を集めたことはいまだかつて一度もない。デビュー以来ずっと、マイク・タイソン、イベンダー・ホリフィールド、リディック・ボウに次ぐ第4の選手だったのだ。 ルイスがソウル・オリンピックの金メダリストとして鳴り物入りでプロに転向した89年、ヘビー級はタイソンの快進撃が続いていた。しかし、翌年タイソンが東京ドームでジェイムス・“バスター”・ダグラスにまさかの敗北を喫し、王座から転落すると、ホリフィールドの季節が訪れる。“季節”と表現したのは、それほど長い時間ではなかったからだ。ホリフィールドも2年余りでリディック・ボウにタイトルを明け渡し、ずば抜けた存在のチャンピオンはいなくなる。 「ボウとはやりたかった。もちろん勝算もあったしね。オリンピックのファイナルが楽な試合だったとは言わないし、ボウもプロとしてキャリアを積んで進歩していただろう。でも自信はたっぷりあったんだ」 チャンピオンになる直前、ルイスは無冠となったタイソンと2度グローブを合わせ、ともに善戦したドノバン・“レーザー”・ラドックをあっさりと2回KOで粉砕していた。ラドックはタイソンを相手に判定まで粘ったタフネスを誇り、次期チャンピオン候補と評価の高い選手だった。ボウがルイスとの防衛戦を拒んだ時、「逃げた」という声も囁かれた。 「ボウはビッグ・マウスだしな。オレをあれこれ言うなら闘えばよかったんだ。こっちはいつでも統一戦を組む気持ちはあったんだから。結局引退しちゃったね」 ルイスがWBCタイトルを3度防衛する一方で、ボウは格下相手のファイトを2つ消化し、その後リターンマッチでホリフィールドに雪辱される。半年後、ルイスもまた4度目の防衛戦に失敗。2ラウンドKO負けでオリバー・マコールに王座を奪われる。 「うん。確かに派手にやられた。プロ生活唯一の敗戦だよ。カー・クラッシュのような出来事だった。まあ、ラッキーパンチってやつじゃないの(笑)。でも、おかげでさらに強くなれたと思う。アリだって3回負けてるでしょ。今では、あの敗北がオレのメンタルも身体もパワーアップしたって感じてるよ」 世界の頂点から滑り落ちた彼は、新たなトレーナーと契約を結ぶ。80年代の中量級のスーパースター、トーマス・“ヒットマン”・ハーンズを育てたエマニュエル・スチュワードである。エマニュエルはボウに敗れたホリフィールドを指導し、王座返り咲きに成功したファイトのチーフセコンドを務めていた。選手を再生させることに長けた人物だった。 「ハーンズは尊敬するボクサーの一人だし、エマニュエルの論理的な指導には説得力があるんだよ。彼の言うことはすごく理解しやすいんだ。もう一度出直して、さらにスケールの大きいチャンピオンを目指すには、どうしても彼のアドバイスが必要だった」 ところが、一度王座を奪われたルイスになかなかチャンスは巡ってこなかった。実に、2年半もの迂回を余儀なくされた。勝ち星を重ねてはいたものの、その間にヘビー級は目まぐるしい変化を見せる。ホリフィールドは心臓疾患で一度引退。45歳のジョージ・フォアマンは20年ぶりにチャンピオンに返り咲く。さらにタイソンは出所してカムバック。病を克服して復帰したホリフィールドはボウと3度目の対戦(ホリフィールドのKO負け)。そして昨年11月のWBAヘビー級タイトルマッチ、『タイソンVSホリフィールド』では、予想に反してホリフィールドが勝利者となる。 レノックス・ルイスの名前は、忘れられつつあった。今年2月のWBC王座決定戦で、オリバー・マコールに復讐を果たすとともに、再びチャンピオンとなったが、人々の関心はホリフィールドとタイソンのリターンマッチにばかり注がれ、彼は脇役でしかなかった。事実このタイトルマッチは、昨年タイソンが返上し、空位となっていたベルトをルイスがつかんだのだった。また、この一戦はコカイン中毒の後遺症に悩むマコールが戦意を喪失して試合途中で泣き出し、失格負けとなる。さらに、“世紀の噛みつき”となった『ホリフィールドVSタイソンII』から2週間後に行われた初防衛戦も、挑戦者に闘う意志がなく、終始クリンチを繰り返すだけで、再び失格勝ちで勝者となっていた。ルイスのファイターとしての実力が称えられることは全くなかった。 「そうなんだよ。世界ヘビー級タイトルマッチだぜ。泣き出したり、噛みついたり、抱きついたり…こんなことが続いていたら、ファンが離れていっちゃうよ。今度のオレの相手のゴロタだって、最近の試合は2回連続で反則負けだろ。あいつが汚い手を使う前に片付けるつもりだけど、その次はホリフィールドと最高の試合をやって、オレが本当のキングだってことを証明したいんだ。そうすればボクシング界も、もっと盛り上がるだろうしね」 そう言うとルイスはニッコリと笑った。そして付け加えた。 「ホリフィールドには、過去に何回もオファーを出しているんだ。いいかい、ヤツはリディック・ボウと3回、タイソンと2回闘って、マイケル・モーラー(現IBFヘビー級チャンピオンで、94年4月にホリフィールドに判定勝ちしている)とも11月に2度目のファイトをするんだよ。なのに、なぜオレとはやろうとしないんだ?恐れているって言われてもしょうがないだろう。実現したら必ずヤツをKOしてみせる。楽しみにしていてくれ」 世界ヘビー級のベルトを三度(みたび)手にしたのは、モハメド・アリとホリフィールドの2人だけである。今や実力ナンバーワンとされ、アメリカの国民的英雄となったホリフィールド。しかし、クルーザー級から身体をつくり上げ、ヘビー級としては小柄な彼は、ルイスのような体の大きい選手を相手にする場合、毎回苦戦を強いられる。ルイスの話を聞いているうちに、ホリフィールドが逃げているのは事実に違いない、と思うようになった。 「とにかく、今一番闘いたいのはホリフィールド。その後、ヘビー級のベルトを統一したらタイソンにチャンスを与えてやってもいい。ヤツはきちんと復帰できて、望めばの話しだけどね。それにしても、タイソンには失望したよ。確かに衰えてるし、先がないのは誰もが感じてることだ。でも、ヤツはもう何年もこの業界で生きているんだから、ボクシングという競技も、ルールも分かっているはずだろう。どこだってルールは守らなきゃいけないんだよ。オレたちは、ボクサーであると同時に社会人なんだから」 レノックス・ルイスの言葉は実に的を得ていた。カレッジ(日本でいうところの短期大学)での成績も悪くなかったと語っていたが、非常に頭の回転の速い男だった。そのあたりは彼のファイティングスタイルにも表れているように思えた。 「彼はビッグファイトの経験が少ないので、知名度の低いチャンピオンなのかもしれません。ですが、今後誰もがレノックスの名前を覚えることになるでしょう。間違いなく現在最強のヘビー級ボクサーです。ホリフィールドと闘っても、タイソンと闘ってもKOで勝つでしょう。彼の特徴は、左右の破壊力抜群のパンチを、正確に、シャープにヒットできる点です。さらにスピードのあるコンビネーションを覚えれば、歴史に残るヘビー級王者になれるでしょう。1年後には、驚くほどの選手になっていると思いますよ」 この日、ルイスは2人のパートナーを相手に、5ラウンズのスパーリングをこなした。やや痛めているという右を使わずに、左1本で相手をコントロールし、トリプルのジャブ、フックからボディ打ちのコンビネーションを幾度となく見せた。フェイントをかけては相手の懐に潜り、ショートパンチを浴びせる。緩急のつけ方が巧みで、ほとんど空振りをしなかった。時に自分からロープを背負い、相手を誘い込んだ。そして、パートナーのすべてのパンチをカバーリング、ブロッキングでかわしてみせた。攻守ともに全く無駄がなかった。 スパーリングを終えてヘッドギアを取ると、自慢のドレッド・ロックスがあらわになった。このヘアスタイルの意味は?と尋ねると、 「尊敬するボブ・マーリーと、ジャマイカの神の影響さ」 と、答えた。さらに、 「オレにはジャマイカ移民の血が流れているんだ。生まれたのはイングランドで、12歳の時母親とともにカナダに移住して、そこで育った。だから国籍は2つ持ってる。子供の頃からバスケット、フットボール、テニス、チェス、何でも得意だったなぁ。カレッジはバスケットの推薦で入ったんだよ。でも、いつの間にかボクシングがメインになった。で、オリンピックで勝って、プロに誘われてね。学問はカムバックできるけど、ボクシングは人生の一時期しかできないだろう。それで中退したんだけど、引退したらもう一度勉強しなおすつもり。哲学を学んでみたいんだ。今はイングランドに家を持っていて、トレーニングはアメリカでして、バケーションはジャマイカっていうスタイルなんだけど、いずれはジャマイカに住みたいね」 と語った。 「今、いい人を探しているところ。まぁ、オレのワイフはボクシングってところかな」 と、はぐらかした後、 「いつまでも名前の残る、本物のヘビー級の星になりたい。そして、チャンピオンのまま引退したいんだ。そのためには努力しかないんだよ」 とつなげた。
ニュー・チャンピオン、ボウはルイスが五輪決勝で2度のダウンを奪って下した相手だった。この時ルイスはWBC世界ランキング1位。指名挑戦者としてボウと闘えるはずだった。が、統一ヘビー級王者のボウは3本巻いていたベルトのうちWBCタイトルを返上。ここでルイスは闘わずしてWBCチャンプに認定される。
「第4の男」に甘んじていた当時、ホリフィールド戦を熱望していたレノックス・ルイス。
エマニュエル・スチュワードは語る。
「間違いなく現在最強のヘビー級ボクサー」----。名将エマニエル・スチュワード(左)の言う通り、その後ルイスはホリフィールド、タイソンともに撃破した。
結婚はまだしないの? と聞くと、
10月4日、2度目の防衛戦のリングに上がったルイスは、僅か95秒で挑戦者、ゴロタをキャンバスに沈めた。彼の言葉通り、久しぶりに見るヘビー級らしい好ファイトだった。ホリフィールド戦でも、派手なKOを見せてくれるに違いない、そんな期待を抱かせた。
長く第4の男に甘んじてきたレノックス・ルイス。だが、いよいよ彼の時代が到来しそうな気配である。私に歌ってくれたオリジナルのレゲエミュージック「♪蝶のように舞い、蜂のように刺す。すべてのファイターがオレの前で倒れ、起き上がったらアッパーカットでひざまづかせる。チャレンジャーは泣きながら『助けて』とレフリーにすがるのさ♪」という曲のように、アップテンポで統一のベルトまで駆け抜けてもらいたい。
〜『PENTHOUSE』1997年12月号より
<当時を振り返って・・・>
レノックス・ルイスのベスト・バウドは、ゴロタ戦ではないだろうか?
この試合の後、「ゴロタ戦のような彼を観たい」と何度思ったことか。キャンプでの動きは、本当に素晴らしく、非の打ち所の無いものだった。彼がホリフィールド、タイソンに勝つことを確信させた。が、“ポカ”もやってしまう人なのである…。
彼に関しては、いずれ長い原稿を発表しますのでお楽しみに!
[2003.10.06 記]