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■妄想家・夏野澤夫の架空小説 〜ばかばかしいけど、真剣!〜■

夢想世界バンタム級タイトルマッチ
[辰吉丈一郎 vs 鬼塚勝也]

←第4章

第5章  決 着


《8R》
 辰吉の左まぶたが腫れている。

 前のラウンド同様、辰吉は前に出て、鬼塚の真正面に立って、コンビネーションを放つ。ワンツーで迎え撃つ鬼塚。ともに決定打はないが、急所をはずれたパンチが互いの体へ降りそそぐ。

 ラウンド後半は、鬼塚がパンチを放っては露骨にクリンチするという展開になった。ために辰吉は連打を封じられる。

 ブーイングと喝采が入り混じる。

 辰吉に苛立ちがみてとれるが、クリンチにきた鬼塚に、終了間際、得意の左ボディをようやく一発ヒットさせる。

 コーナーへ戻る辰吉の左まぶたがさらに腫れあがっている。鬼塚は右目上をカット。

「辰吉、だいぶ腫れましたね。鬼塚も目の上をカットしたようですが、このあたり白井さん、今後の影響はどうですか」

「そうね、鬼塚の方はまだ傷は浅いからね、これも深くなると血が目に入って厄介ですよ。それより辰吉のまぶたね、だいぶ腫れましたな、視界が狭まって距離感がおかしくなりますよ」

「距離感といいますと」

「当るつもりで出したパンチが届かないとか、逆にかわせると踏んだパンチをもらってしまうとかね」

「あの、ま、素人考えなんですが、わたくし、いつぞや眼を患いまして、そのとき眼帯をつけたんですけど、あれは怖いもんでした。とりあえず片方の眼は見えるから大丈夫と思っていたんですが、とんでもない、足を踏み出すのがたいそう不安でした」

「片方の眼が完全にふさがってしまったら、ダメですよ。試合ができる状態ではありません。本人がいくらやると言い張っても、レフリーは止めます」

「やはりそうですか。あの、もうひとつお尋ねしますが、よくパンチが見えるとか見えないとか言いますが、実際どうなんでしょうか、パンチというのは飛んでくるのがわかるものなんですか。もちろん、眼を痛めていないという前提ですが」

「予測しながら戦ってますからね、予測した方向からきたパンチならわかるんですがね、これが横とか下とか、予測していないほうからくるとね、むずかしいですな」

「具志堅さん、いかがですか」

「パンチ来たらね、わかるんよ。それでこのくらいのタイミングでブロックすればいいとか、よければいいとか思うんよ。だけど疲れてたり調子よくなかったりするとね、自分が思ってたよりも速く正確なパンチが来るんよ。それでタイミングをはかり直したりするうちに、相手のペースになったりするんよ」

「なるほど、わかるような気がしますが、いま具志堅さんがおっしゃったことは当人でないとわからない世界のようですね」

「それと、辰吉は後半になると、わかっていながらパンチを顔で受けとめてしまうところあるね。パンチもらっても自分のパンチ当てて倒しにいくところあるね」

 白井が口をはさんだ。

「攻撃も大事ですが、防御も大事ですぞ」

 28-29。

《9R》
 鬼塚、左ジャブを多用して距離を取ろうとする。辰吉はあいかわらず前へ前へ。有効打はないがロープへ追いこんで左右ボディを見舞う。鬼塚は必死でクリンチ。

 ロープにつまるのは危険と察した鬼塚は、リング中央で打ち合いにでる。辰吉も応戦するが、鬼塚のクリンチワークに手を焼く。

 鬼塚は、ワンツー出してクリンチ。辰吉は、いきなりの右をヒットしたが、すぐにクリンチされてあとが続かない。

 汚ねえぞ鬼塚!

 リングサイドからの野次が実況席に届いた。

 終了間際、辰吉、腹へ左フック、返しの右はアゴを狙ったが、鬼塚のわずかなダッキングに空を切った。

 28-29。CM。

《10R》
 両陣営の指示は、鬼塚が、打ってはくっつけ、辰吉は、ハラ打って上に返せ、というものだった。

 辰吉の左目はふさがりかけていた。鬼塚の顔も腫れと出血で、その精悍なマスクに崩れが生じている。

 場内からは両者への声援が織りまざって、もはや実況の音声はどこへも届かない。

 鬼塚は指示通り打ってはクリンチの繰り返し。突破口を見出せぬ辰吉は手数が減って、ブレークの声がかかるまで、クリンチされてもそのままでいることが多くなった。

 クリーンヒットはないものの、鬼塚優勢で進んだラウンド、残り20秒、サイドステップから辰吉の左ボディアッパーが鬼塚のみぞおちを直撃。ガードがさがったところへ、返しの右フックがテンプルをとらえた。鬼塚、3歩4歩ニュートラルコーナーまで後退。辰吉、鬼気迫る形相で回転の速い左右を連打。鬼塚、ガードをかためたままコーナーに釘付けで、サンドバッグ状態。

「鬼塚、クリンチかパンチ○○ないと危な○で○よ、何か○○いとこのまま試合止め○れ○○○しれま○○よ」

 叫喚の中、白井のうわずった声がとぎれとぎれに聞こえる。

 鬼塚、棒立ちのままラウンド終了のゴングが打ち鳴らされた。

 30-25。

《11R》
 明らかにKO狙いで辰吉が突進してきた。左にかわした鬼塚はそのままクリンチ。ふりほどこうともがく辰吉をそのままロープまで押し込む。

 レフリーが割って入って、離れてすぐ、辰吉の右と鬼塚の左ショートが交錯、一歩さがったのは辰吉だったが、鬼塚に追い足はない。反撃を試みる辰吉にまた左ショートが軽く顔面にヒット。続いてワンツーを打つ鬼塚だが、パンチは流れる。辰吉はなぜか手が出ない。

 ラウンド半ば、鬼塚のワンツーが辰吉の顔面を襲う。のけぞってかわす辰吉だったが、浅くヒット。いやいやをするように辰吉は首を振る。追い討ちをかけようとする鬼塚に、この試合はじめて辰吉からクリンチにいった。

 モニターを見つめる金子は、いいようのない思いに駆られていた。

 辰吉丈一郎。日本ボクシング界に現れた一代のカリスマ。重心のぶれないリズムボクシングを基調として、軽やかなフットワーク、しなやかなボディワークから、多彩なパンチを縦横無尽に放ち、ここぞというときの連打は見る者を魅了してやまない。わずか11戦しか試合をしていないが、そのいずれもが、げすな言いかただが、高値がつく商品であることに間違いはない。

 その辰吉が、眼疾の影響があったにせよ、今はただのファイターにすぎなくなっている。ファンへの心配りが過剰だったのではないか。身長を15センチも上回るというリーチの長さも、そのボクシングには反映されていない。

 金子はかすかな溜息をもらしてから、煙草をくわえた。

 我々がかつて見たことのない、攻防兼備の華麗なボクシング、選ばれた天才にしてはじめてなしうる、そのボクシングの芽を、我々は、我々のいっときの興奮を得るために摘み取ってしまったのではないか。

 場内は興奮で煮えたぎっていた。

 27-30。

《12R》
 2人のボクサーはリング中央に進み出て、静かにグラブを合わせた。

 他局のアナウンサーは、喚声にあらがうべく、絶叫していた。

「21年前、永遠○チャン○オン○○政夫○ラス○・ファ○トは、奇しくも今日○同じ、1月2日の○○○○た。初回○ダウ○を奪○○るも不屈の闘志○チャチャ○・チオ○○を死闘12ラ○○ズ、日本○○シング史上まれ○○る逆○劇で屠り○○○。それ○ら○○○二十○日後、○転の貴公子○○○夫は首都○○でその短い生涯を終○○○た。しかし○○は永遠○語り継が○○ボク○ーとなり、その○○○○○は○○となり○○○。あ○とき、○○三歳○○満た○○っ○二人○時を○○○ボ○○○に○○、それ○○○世界○頂点○○○め、今、時を越○○、新た○○○を○○○○○○し○○○○…」

 辰吉も鬼塚も、あらん限りの力を出して、休みなくパンチを繰り出した。

 バシッ、バシッ。

 パンチがヒットするたびに効果音のような音が届く。

 あわてていたのは局の裏方だった。

 最終ラウンドが終ったら、すぐに勝敗をコールしないと時間枠に入らない。あとに控えるニュースと天気予報とを割愛、もしくは端折れないか、ぎりぎりの交渉を続けていたが、がんとして聞き入れてもらえなかった。

 ゴングが鳴り響いて、2人は抱き合い、健闘をたたえあった。

 28-29。

 タキシード姿のリングアナウンサーがロープをくぐって、そそくさと現れた。

「勝者、鬼塚!」

 会場はまたしても、うおッーんという喜怒哀楽の交じり合った大音声に包まれた。

 突然、画面が消えた。

第6章(最終章)



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