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■妄想家・夏野澤夫の架空小説 〜ばかばかしいけど、真剣!〜■

夢想世界バンタム級タイトルマッチ
[辰吉丈一郎 vs 鬼塚勝也]

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第4章  白 熱


《3R》
 セコンドアウトのアナウンスのあと、的場は言った。

「鬼塚は攻防分離の欠点を指摘されますが、どうですか、まだ2ラウンド終ったばかりですが」

「そうねえ、辰吉のプレッシャーが思いのほか強いのか、まだ様子を見てるのか」

「攻めなきゃ。辰吉もきてるんだから鬼塚もチャンピオンとして攻めていかなきゃ」

 現役時代、怒涛の攻めで観る者を釘付けにしてきた具志堅は、手数が少ないボクシングをみると苛立ってくる。

 辰吉はフットワークをおさえて、リング中央で左右連打。鬼塚も応戦。会場はひときわどよめいた。

 辰吉の左に鬼塚の右がクロスになって浅くアゴをヒットしたが、あとが続かず、もみあいになり、この試合はじめてレフリーが割って入った。手数はようやく同等になったが当りの数では辰吉。

 採点30-27。CMボタンオン。

《4R》
 開始早々、鬼塚の左ジャブが当る。辰吉苦笑い。かまわず鬼塚左右ストレートをもっていくがサイドステップ、スウェイバックでかわされる。なおもにじりよってワンツー、これもダッキングで辰吉かわす。鬼塚のスリーと辰吉のフックぎみの右が相打ちになる。

「ようやくエンジンがかかってきましたな」

 白井が興奮をおさえて言った。

「鬼塚ですか」

「そう、わりあい鬼塚は前半だめなんだよね。相手を見すぎるきらいがある。でもそんなこと言ってられないでしょう。そろそろ行かないとね」

 鬼塚の左ジャブがおでこに当り、辰吉のけぞる。踏み込んで左右を振るうが辰吉も応戦、互いに明確なヒットがないままクリンチになる。

 採点28-29。CM。

《5R》
 開始早々から鬼塚、左ジャブを突くが、いずれも空を切る。ヘッドスリップ、サイドステップでかわしながら辰吉はコンビネーションを打ち込む機会を狙う。1分過ぎ、ジャブの打ち合いから、辰吉が強引にステップインして連打。チンをとらえる。鬼塚、しゃにむにクリンチでしのぐ。

 レフリーが2人を分けると、場内にタツヨシコール。打ち消すようにオニヅカコールも湧き上がり、ふたつが交錯して、しまいに、うおーッという喚声になってドームを揺さぶった。実況席はまたしても声が通らない状況になった。

 ラスト30秒、辰吉の入りばな、鬼塚の右ストレートが顔面をヒット。ナックルパートがきれいに辰吉の口許に当った。

 鬼塚はその右拳にグシャ、という感触を得た。林在新戦の9Rに当てたストレートと同じ手応えだった。辰吉は1歩2歩さがったがすぐに反撃に転じるべく、フックぎみの左右を打ち返した。

 どつきあい、やったろやないか。

 辰吉は自身に念じて、パンチをくりだそうとしたが、すかさず鬼塚が抱きついてきたところでゴング。

 28-29。

《6R》
「鬼塚のいい右がはいりましたな、ナックルがきれいに当ってね。あのあと続けば辰吉も危なかったですよ」

 白井が解説したので、的場はざわつく青コーナーを盗み見ながら尋ねた。

「ナックルというのは具体的にはどこの部分を言うのでしょうか」

「ナックルっていうのはね…」

 白井が言うのをさえぎって、具志堅に声をかけた。

「具志堅さん、ちょっとお願いします」

 申し合わせ事項のひとつだったので、具志堅ははにかんだ様子ながら、やおら立ち上がった。背広を脱いで、左利きゆえ、ワイシャツの右袖を手早くたくしあげて、右拳をカメラに差し出した。

「ここにバンデージっていってね、包帯みたいなもん巻いて…」

「それはどういう理由で?」

「パンチの衝撃へらすためね」

「パンチの衝撃というのは、つまり…」

「相手への衝撃ちがうよ。パンチ打ったとき自分の拳が衝撃でもたないから、それ守るためね」

「なるほど」

「それでも痛めるよ。折らなくても、試合終ったら腫れ上がってるよ。ナックルっていうのはバンデージを巻く、ここのところよ」

 そう言って、具志堅は、意外にきゃしゃな指でナックルパートを指してから、右拳をむすんでひらいて、最後にぐいと握りしめて、その拳を軽く空に打ち込んだ。近くの客から拍手をもらって、そちらへ照れくさそうにちょこんと頭をさげてから着席した。

 開始ゴングが鳴って、辰吉は左へ回りはじめた。

 正面に立つな、下半身でパンチをかわせ。

 インターバルで大久保から厳しく叱責されたからだ。けれども言いつけを守ったのは初めの30秒だけだった。

 鬼塚は執拗に左右ストレートを繰り出してきた。その大半は空振りだったが、2分20秒、またしても右が辰吉の顔面をとらえた。これをきっかけに両者、リング中央で猛然と打ち合う。五分の打ち合いだったが、鬼塚が左フックをひっかけたところでラウンド終了。

 大歓声に声が通らないことを承知で、的場はCMボタンを押さなかった。

 カメラは会場の興奮を追った。続いて、コーナーで古口の言葉に耳かたむける鬼塚、何やら大久保に問いかけている様子の辰吉を映し出した。

 27-30。

《7R》
 ゴングと同時に辰吉は不用意と思えるほど、まっすぐに入ってくる。ワンツースリー、鬼塚のガードのすきまにコンビネーションを打ち込む。鬼塚クリンチ。

 離れてまた辰吉の左右が鬼塚を襲う。またも鬼塚クリンチ。辰吉の攻勢に場内はどよめいて、実況がままならない。

「辰吉、倒しにきてるね」

 具志堅が言ったが、歓声にかき消される。

 モニターを見ていた金子は、前のラウンドの採点が辰吉陣営に動揺を与えたに違いない、と感じた。ラウンドごとの採点公表は鬼塚側に有利にはたらくと、ぼんやり考えていた金子は、ポイントを失うたびに辰吉陣営は浮き足だってくると見ていた。辰吉の攻めをしのげば鬼塚にチャンスがくる。パンチの打ち終わりにカウンターを合わせられれば勝機がある。

 1分過ぎ、辰吉が入ってきたところへ鬼塚の左フックがヒット。左へかしいだ辰吉へ追い討ちのワンツーを放つが、これはミスブローになり、そのまま鬼塚はクリンチにいく。以後、このラウンドは鬼塚がワンツーを放ってはクリンチする展開になった。辰吉は糸口が見出せぬままラウンド終了。

 27-30。CM。

第5章



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