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10月のボクシング雑誌の発売日にページをめくると、試合スケジュール欄にこのカードが掲載されていた。「タイ・ハジャイ? 一体どこにあるの?」 全く聞いた事のない街だったので好奇心から本で調べていくうちに、いつしか好奇心から妄想へと変化していた。どうやらタイの首都バンコクからはるか彼方離れた南部最大の街らしい。そして、9日後にはバンコクへ飛ぶエア・インディアに搭乗していた。いつもながらの急展開である。 バンコクの空港から足を一歩踏み出した瞬間に蒸し暑さが襲ってきた。ハジャイまで飛行機だと1時間20分くらいだが、安さをとって鉄道を選んだ。約18時間という長い道のりを経ると、遠くにハジャイの中心街が見えてきた。 駅前の売店に並ぶたくさんの新聞はほとんどがムエタイの写真であったが、その中からチャンピオン・ポンサクレックの写真を見つけ出し、身振り手振り必死で会場までの行き方を書いてもらった。散歩気分で歩き始めること30〜40分、大学らしき場所にたどり着いた。会場はここの体育館らしい。 会場のスタッフに英語で話し掛けると、返ってきたのは「チケットは売り切れ」という非情な宣告であった。一瞬、頭の中が真っ白になった。そのスタッフに「日本からこれを観に来たんだ!」と伝えると「ここで待ってなさい」と言い残してどこかへ去っていった。 「苦労してこんな所まで来て、一体何をしているのだろう?」と自問自答しながらその場に立ち尽くすこと1時間あまり、先ほどのスタッフが再びやって来た。手にしていたチケットを差し出され、驚きと感激に支配されていた。お金を取り出そうとポケットに手を入れると、彼は「いいんだ、いいんだ」と言って忙しそうに仕事に戻っていった。どういうシステムなのか、どう流れてきたチケットなのか理解は出来ないが、不思議なこともあるものだ。 今回、ポンサクレックはガーナからやって来たババとの指名試合であった。第1ラウンドのゴング後から、挑戦者の善戦もあり試合は白熱し、観客も盛り上がっていた。チャンピオンがパンチを当てるたびに「オーッ、オーッ!」と声をあげ、客が選手と一体になって応援するのである。タイならではの独特のリズムがある。「WOWOW」の放送で見られるシーンそのままである。 終盤にさしかかった8ラウンドに、試合は突然終了を告げた。偶然のバッティングによる出血が激しいためのレフェリーストップだった。アナウンスされた採点はチャンピオン勝利だったらしい。タイ語のみだったので、両者の表情で判断した。まあ、接戦ではあったがポンサクレックの勝ちだな。 試合後の余韻に浸ること無く出口へと急いだ。帰りのバンコク行きの列車の時間が迫っていたのだ。しかし、タクシーが見当たらず焦っていると、人込みの中にバイクタクシ−を発見した。英語が通じず、旅行会話集の中から「駅」の単語を示して送ってもらった。 今思うに、旅の90%近くは移動時間に費やしたのではないだろうか? ハードであった。
タイでは屋外の試合がほとんどなので、屋内開催は意外であった。何と言っても過去には、道路の交差点や橋の上にリングを設置するお国柄である。