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■『あしたのボクシング』三好秀樹の怪遊記【31】■

2001年6月16日@キシュシュタディオン(ハンガリー・ブダペスト)

WBOフェザー級タイトルマッチ
イシュテバン・コバチ vs フリオ・パブロ・チャコン

 1989年のベルリンの壁崩壊による東欧民主化の影響もあってか、ハンガリー史上初の世界チャンピオンが誕生した(とは言っても、コバチ自身は主にドイツで戦っていたのだが…)。その彼の初防衛戦が祖国ハンガリーで開催されることとなったのだ。正直に明かせば、私の目当てはコバチの前座に予定されていたWBCクルーザー級チャンピオン、ファン・カルロス・ゴメスのファイトだった。

 今回、同国初のチャンピオンによるファイトなだけに、チケットが当日券で大丈夫か不安に思えたので、あるハンガリー専門の旅行会社にチケットの手配を依頼した。あとは出発するだけという時になって、一番目当てだったゴメスの出場が急遽中止になり、失望した。今思えば、今回の旅はこの時点から嫌な流れではあったのかも知れない。

 成田からまず経由地のモスクワへ向かった。モスクワからブダペストへは同日乗り継ぎができないため、空港近くのホテルへ泊まった。チェックイン後、部屋へ足を運ぶと廊下には監視警備員が常駐しており、一歩も外出できないように見張っていた。まるで囚人扱いである。

 モスクワを発つため空港に到着後、手続きを済まし、搭乗券に記載されているゲートへ向かった。しかし、便数は同じでも行き先はなぜかブダペストではなくプラハと表示されていた。ハンガリーではなく、チェコのプラハである。戸惑いを隠せぬまま係員に確認すれども、やはりそのゲートで間違ってはいないようだ。また、私の搭乗する飛行機は、今でもこんな古い飛行機が飛んでいるのかと疑いたくなる程のオンボロで、愕然とした。まったくこの国はどうなってんだ!

 ブダペストの空港に着陸し、機がターミナルへ向かう途中、窓から空港名が目に入り仰天! まさに最も恐れていたことが起こった。そこはプラハであったのだ。旅程では経由なしの直行便だったにもかかわらずである。不可解としか表現のしようがない。「何故? なぜ自分はプラハにいるの? 誰か説明してくれ〜!!」心の中ではそう叫んでいた。

 改めて搭乗したフライトでようやく目的地には到着したものの、こんなことになるとは予想だにしなかった。とんだ遠回りをしてしまったもんである。それも、昼過ぎに到着の予定がすでに夕方ではないか! これがロシアなのか? と釈然としない思いであった。

 ブダペストは、ハンガリーが十数年前まで社会主義国家だったということで、勝手に暗い雰囲気をイメージしていたが、意外にも落ち着いた綺麗な街並みであった。ユースでチェックインを済ますと、まずは試合会場のシュシュタディオンを下見。夜には“世界一内装が豪華”という触れ込みのマクドナルドへ食べに行った。今まで各国でマクドナルドを利用したが、シャンデリアまであるような優雅な雰囲気の所はなかったな。


 翌朝は、ユースで同室になった女性と夕方までともに観光した。札幌在住の彼女は、イタリア、ギリシャなどを旅して、今朝、ブルガリアのソフィアから列車でついたばかりというたくましい女性だった。

 川沿いのレストランで、王宮の向こうに夕陽が沈むのを眺めながらのロマンティックな食事をとった後、彼女と別れて試合を観に行った。会場に入ると、屋外での試合であった。すでにたくさんの客が入っており、19時頃始まった前座が延々と続いていた。

 日付けが変わろうかという頃に始まったメインイベント。大歓声に迎えられた地元の英雄コバチ。対する挑戦者は、前年、アルゼンチンで見た、あのチャコンであった。皆の期待を背負いファイトするコバチだったが、ぱかぱかクリーンヒットされ、後続打でストップされるという悲しい結末。試合後、自らマイクを持ち客に語りかける姿からは悲哀のようなものが伝わってきた。それを暖かく聞き入るお客さん達。励ましの声も飛んでいたのであろう…。

 翌朝5時に、昨日の彼女に起こされた。実は前日、図々しくも、朝起きるのが苦手な自分を起こしてもらえないか、と頼んでいたのだ。しかも、頼む時間を2時間早く間違えてしまっていた。「すいません、2時間早く間違えてました」するとただ一言、「バカ!」

 そんなこんなのやりとりがあり、部屋を出る時、お詫びにと簡単な手紙とアメを置いて去ったが、彼女は許してくれたのだろうか?

 帰りのフライトは大したハプニングもなく、無事に帰国できた。フライトと言えば、なぜ、行きの便がプラハ経由だったのか今もって深い謎である。勝手に想像するに、ブダペスト、プラハへの搭乗客が少なく、それぞれに飛ばせるより一機で両方へ運んだほうが楽と考えたのではないだろうか。

 客を囚人扱いしたり、オンボロ飛行機に乗せるロシアのことだから、あり得ると思いませんか?


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