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■EDITORS report 〜編集取材記〜■

=2004年9月29日(水)=
東日本新人王準決勝
田中啓介 vs. 霜山綾司

= 東京・後楽園ホール =

[ Fight & Report;R.Shimoyama ◆ Photo;H. Inoue The Future of Boxing JAPAN

 台風一過、東京は最高気温30℃、いわゆる「真夏日」が訪れた。昨日、“夏を終えた”ばかりのオレなのに、神様も皮肉めいたことをしてくれる。空を見上げれば深い青が広がり、オレが唯一無二に憧れる存在の雲が浮いている。

「新人王」。雲にいくら手を伸ばしても決して届かないように、ボクシングの階段を初めから駆け上がる者達にとっての最初のタイトルは、まさにオレの横をスルリと通り抜けて手の届かない位置へと去ってしまった。


手がかけられる…と思えた「新人王」。突きつけられた現実はキビシいもんだった
 9月29日、東日本新人王準決勝Sライト級。2R1分23秒TKO負け。突きつけられた現実。

 あの日の控え室。控え室のモニターには続々と試合が映し出される。さすがに準決勝だけあって白熱した接戦が展開されていた。注目されていたヨネクラジムの杉田兄弟がそろって敗れた。控え室には勝者が次々と帰って来て、記者たちのインタビューに受け答えしている。敗者を取材する者は誰一人としていない。まさに明暗がくっきり分かれる瞬間だ。

 同じ控え室だったSフェザー級、横浜光ジムの小林生人(←ラッパーのエミネム好き)は『あしたのボクシング』を知っていた。対戦相手、6戦6勝の中山が川島ジムということで、川島郭志さんのボディ講座を見たらしい。なかなか面白いヤツだ。オレは小林と手を合わせて送りだした。そして彼は見事に決勝行きの切符を持って帰って来た。

 次は自分の番だ。勝てば「新人王」に手がかかる。減量は上手くいった、調子は悪くない。対戦相手の田中は3連続KO勝ち中。自信を持って向かってくるに違いない。

 リーチの差を生かして相手の出鼻をくじく。相手を勢いづかせてはダメだ。手を止めたらやられる。肚は決まった。多少の被弾も覚悟した。

 いつも通りにリングに向かい、コールを受け、リング中央へ。若干、緊張が体に残っていた。赤コーナー側に田中がいる。いい目つきだ。闘犬っぽいぞ。

 試合開始。闘犬は思ったより強引に前には出てこない。しかし、いつでも飛びかかれるように前傾姿勢を保ったままだ。いつもなら足を使って相手の出方を伺いたいが、今日のテーマはそうじゃない。先にジャブを放ち、相手が距離を詰めたらパンチを合すことだけに集中。


5戦5勝(4KO)に戦績を伸ばした田中啓介(協栄)。
「ガッ」右のフックはやっぱり重い。うお〜、足を使いたい。ダメだ。行くんだ、手を出せ。

「ガッ」右フックを左目にもらった。ちょっと効いた。視界もぼやける。「やばっ」幸い、左目はすぐに見えるようになった。反撃開始〜。

 田中のジャブももらったが、その打ち終わりにこちらもジャブで応戦。ワンツーからの返しの左フックが結構当たる。反応できてねえ。こっちの右ストレートを警戒しすぎだ。

 田中の詰めも鋭い。来た、と思ったら3発は入れてくる。アッパーも交じってくる。ハートも強いし、思いきりもある。それでも、タフに思えた相手が徐々に徐々にだが、パンチを受けるたびに動きが止まるように思えてきた。完全にヒートアップした。もういく。ぶっ倒す! 倒れろ!!

 田中もまったくひかず1R終了。正直、足を使っている時より余裕はないが、手応えはある。「いいペースだ。左突いて、左突いて…」「返しの左は見えてないぞ」セコンドも良い感触を掴んでいるようだった。

 運命の2R。ペースは譲らない。手を出す、手を出す。何か良いパンチが決まった。相手が効いたように見えた。倒せる! 次第に田中はオレの懐に頭をもぐり込ませるようになった。向こうも苦しいはずだ。上から押し潰してやった。注意を受ける。いいじゃん、こんくらい。

 今度はこっちが頭から相手をロープへ押し込む。押し返す力が弱い。この時もボディ、ボディ、ボディ。審判からのブレイクってどんだけかかったんだろう? そんなにないよな?

 ロープ際の位置が変わってまた詰める。詰まって離れたその一瞬の間…。ふっと気が弛んだ。見えないパンチが飛んできた。何をどこにもらったのかも分からない。2発、3発、追撃打が容赦なく飛んでくる。避けられねえ。ちょうど自分の青コーナーに追い込まれたところでレフェリーがストップの合図。あっけない幕切れだった。

 ロープに詰めた後の離れ際の一撃。以前、まったく同じ状況と遭遇した覚えがある。デビュー戦、2R。ロープ際で相手にくっつき過ぎたオレは離れようとしたところにパンチをうけた。あの時も猛攻をうけて、あと少しでストップまで追い込まれたが、クリンチで逃げのびた。

 あの一撃は、教訓としてオレの心には刻まれていなかったことになる。同じ過ちを繰り返し、今度は負けた。相手のレベルが上がれば上がるほど、一瞬のミスは逃してはくれない。自分はそういう厳しい世界にいるのだ。一体、オレはそれをどれだけ分かっていたんだろう。今だって分かっているのか、疑わしいもんだ。

 もう10月だというのに、タンクトップの若い男が自転車で追い抜いていった。長い夏を終えたオレに、神様がもう一日だけ夏をプレゼントしてくれたのかもしれない。

 

[2004.9.30 記]



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